2025年のラーメン業界で「なぜ閉店が増えているのか」を、データ・制度変更・現場の実態まで一体で整理します。経営者・現場の意思決定に役立つよう、「構造要因 → 収益モデルへの直撃点 → タイプ別の危険信号 → 打ち手」の順でまとめました。
- 1. 2025年の「閉店」を巡る全体像
- 2. コストの三層圧力:原価・人件費・エネルギー
- 3. 「1,000円の壁」と価格転嫁の難易度
- 4. 閉店が起きる“典型パターン”5選
- 5. 地域差:都心と郊外で“閉店の理由”が変わる
- 6. チェーン vs 個店:閉店ダイナミクスの違い
- 7. 2025年「閉店」を加速させた直接要因
- 8. それでも「新規出店」が止まらない理由
- 9. 事例で見る:ラーメンチェーンの閉店ニュース
- 10. 2025年後半〜2026年の見通し
- 11. オーナーのための“実装的”打ち手(現実解)
- まとめ:2025年の「閉店」は“淘汰”であり“設計課題”でもある
1. 2025年の「閉店」を巡る全体像
まず大外の景色です。2025年上半期、飲食店倒産(負債1,000万円以上・法的整理)は458件で、上半期として過去最多を更新。通年ペースでは900件台到達の可能性が示されています。飲食全体の収益を原材料費、人件費、電力料金が三方向から圧迫しているのが大枠です。
ラーメン業態に絞ると、2024年の「ラーメン店」経営事業者の倒産は72件(過去最多)。2025年に入ってもコスト高と価格転嫁の難しさは続いており、閉店・撤退は鈍化せず進行中です。
2. コストの三層圧力:原価・人件費・エネルギー
2-1. 原材料(小麦・畜産・油脂)
ラーメンは小麦(麺)と畜産系(豚骨・チャーシュー・ラード)依存度が高い業態。2025年4月期の輸入小麦政府売渡価格は4.6%引き下げ(加重平均63,570円/トン)。為替・国際市況が落ち着いた結果で、粉価にわずかな追い風です。ただし「値下げ=即座に楽になる」ほどのインパクトではなく、他コスト上昇に埋もれがちなのが実感値。
一方、豚肉価格は高止まり。2025年5月の国産豚バラの全国平均小売は100gあたり287.2円。業務用の相場は別ですが、家計側の価格水準は依然として高く、外食の原価計算にもじわり効いています。
2-2. 人件費(賃上げ・人手不足)
外食全体で人手不足と賃上げ圧力が続き、深夜・長時間営業の維持難が増えました。特にピーク時間の短時間要員確保が難しく、ロス(残ったスープ・麺の廃棄)と人件費の同時上振れが収益を蝕みます。倒産増の背景として人件費の上昇は飲食全体で明示されています。
2-3. エネルギー(電気・ガス)
2025年度は再エネ賦課金が3.98円/kWhに上がり、前年度比0.49円/kWhの値上げ要因。煮炊き・製麺・保温・空調・給湯など電力依存が高いラーメンは「電気の上げ幅=粗利の直撃」になりやすい構造です。自治体補助や電力会社のメニュー切替で和らげられる局面はあるものの、電気料金の構造的上振れは続いています。
3. 「1,000円の壁」と価格転嫁の難易度
2024年の倒産増を解説する主要論点として「ラーメン一杯=1,000円の心理的壁」が挙げられました。2025年も消費者の“定点価格”意識は根強く、値上げが客数の弾性に直結。同時に麺量・具材・味の濃度など「実質値上げ(シュリンク)」の受容度はメニュー・ブランドによって差が出ます。大手でも首都圏での大量閉店事例が話題となり、売上単価の引き上げだけでは吸収しきれない現実が浮き彫りです。
4. 閉店が起きる“典型パターン”5選
- 家賃比率の上昇
家賃は固定費。家賃比率10%→12~15%に上がると一気にキャッシュが痩せます。都心・駅前・大型モールで顕著。 - 回転率の崩れ
価格改定後に滞在時間が伸びる(替玉・飲酒併用)と席効率が悪化。回転の微妙な鈍化が日販・月販に線形ではなく“想像以上”に効く。 - 仕込みのロス増
日内需要の凹凸が大きい立地で、濃厚スープの仕込み過多→廃棄。原価率悪化+人件費の二重パンチ。 - 人材の細りによる営業時間短縮
昼だけ営業や定休日増が固定費回収力を落とす。スープ炊き工程の属人化がボトルネック。 - ブランド摩耗と差別化の陳腐化
二郎系・家系・鶏白湯・煮干しなど主要カテゴリは“飽和マーケット”に近接。新鮮な体験設計を欠くと、競合の近接出店で一気にシェア流出。
5. 地域差:都心と郊外で“閉店の理由”が変わる
- 都心/繁華街:家賃と人件費の高さが致命傷化。訪日需要の波に依存した店舗はオフ期に粗利が沈む。
- 郊外/ロードサイド:エネルギーコストの影響が相対的に大きい。駐車場・客席広め=空調コスト増。人手確保難で営業短縮→固定費回収難に。
- 観光地:波が荒い。繁忙期の高回転と閑散期の赤字を年で慣らす設計に失敗すると撤退が早い。
6. チェーン vs 個店:閉店ダイナミクスの違い
- 大手チェーン:本部は不採算店のスクラップ&ビルドを高速化。首都圏での集中的な閉店が象徴的です。一方で別立地への再配置・新業態テストは活発。
- 個店:オーナー労働で支え、ギリギリのPLでも持ちこたえるが、設備更新(製麺機・空調・給湯)の投資時期に撤退判断になりやすい。承継先不在も閉店理由として目立ちます。
7. 2025年「閉店」を加速させた直接要因
- 電力単価の上振れ(再エネ賦課金含む)→濃厚スープ系の光熱費負担が直撃。
- 賃上げ・人手不足→深夜や通し営業を諦め可処分座席時間が減少。
- 原価の高止まり(畜産・油脂)→小麦が下がっても総原価は横ばい~高位。
- 価格転嫁の壁→「1,000円の壁」・客単価>客数の弾性で必ずしも増益化せず。
- 競争環境→新規参入は依然活発(ニューオープンは各地で続く)。“閉じる一方ではない”のが2025年の特徴でもある。
8. それでも「新規出店」が止まらない理由
- 参入障壁の低さ:仕込み・レシピがノウハウ化しやすい。
- SNS拡散相性:新作・限定・二毛作(夜はまぜそば等)。
- 原価設計の自由度:つけ麺・まぜそばはスープ原価/光熱を相対的に抑制できる。
- ブランド資産形成の速さ:行列=ブランドが短期に作れる。
結果として、「倒産/閉店のニュース」と「ニューオープン情報」が同時多発的に流れ、マーケットの新陳代謝が速すぎるのが2025年の相貌です。
9. 事例で見る:ラーメンチェーンの閉店ニュース
2025年は大手でも首都圏の不採算店整理が顕著に。
報道・業界メディアでは、特定チェーンの複数店舗閉店が取り上げられ、固定費(家賃・人件費)と回転率の綻びが理由として語られています。
さらに、個人系の閉店情報を月次で集計する動きもあり、月200店前後の閉店確認という現場肌感も共有されています(個人ブログの集計であり、統計ではない点に留意)。
10. 2025年後半〜2026年の見通し
- 材料費:小麦は下押し材料がある一方、畜産系・油脂は不透明。為替次第で再上振れの余地。
- エネルギー:賦課金上昇と補助の段階的縮小で、実効単価は高止まりの公算。
- 人件費:外食は構造的人手不足。営業時間短縮=売上機会減が常態化。
- 需要:インバウンドとイベントで跳ねる月はあるが、平時の可処分所得の細りが客数の上値を抑える。
総合すれば、不採算店の整理はまだ続く一方、原価/光熱費に相対的に強い業態(つけ麺・まぜそば・淡麗系少スープ)や、高付加価値体験を設計できる店は生き残りやすい、二極化の局面です。
11. オーナーのための“実装的”打ち手(現実解)
①PLの“回転率”設計を先に決める
- 一杯単価と客席回転を同時にデザイン。「客単価×回転>固定費+変動費」を先に試算し、替玉/サイド/酒で客単価を伸ばすなら席滞在時間の上限も決める。
②メニュー別貢献粗利の可視化
- 一杯ごとに実原価(麺/具/スープ/容器/光熱)と作業分(人時コスト)を紐付け。“売れて赤字”を排除。ラード・背脂・タレ・香味油は微差が粗利に効く。
③熱源と仕込みの再設計
- IH切替・電気契約の見直し、深夜の保温/冷蔵のロス削減。スープ二毛作(白湯→清湯)やスープレス(和え・まぜ)の比率でkWh/杯を落とす。
④麺線・麺量の再定義
- 麺線(太さ)と茹で時間でガス/電気の負担が変わる。替玉文化を活用し、初手麺量-10〜15%でも満足を損なわない配列に。
⑤価格と“心理”的設計
- 990/1,090/1,290円など端数・セット・限定で価格抵抗を緩和。限定(原価高)×定番(原価低)の抱き合わせで総粗利を守る。麺増し・味玉無料券は来店頻度の増幅に効く。
⑥営業時間の“波形最適化”
- 昼2波+夜1波の山に人時を集中。通し営業をやめる勇気。製麺・仕込みの前倒しで高負荷時間を平準化。
⑦立地の再評価と賃料交渉
- 周辺の昼夜人口/競合で回転の上限が決まる。定借の更新期や設備投資前は、退去or移転も選択肢。共同購買・共同物流で仕入/配送コストも圧縮。
⑧チェーンは“閉じる学習”を制度化
- 立地・人材・初期投資の失敗パターンDB化。撤退KPI(売上/坪・家賃比率・人時売上・電力/杯)で早期に判断。
まとめ:2025年の「閉店」は“淘汰”であり“設計課題”でもある
- 数字:飲食倒産は上半期だけで過去最多。ラーメンも過去最多倒産の延長線上にある。
- 要因:原価高止まり+人件費上昇+電力単価上振れ、そして価格転嫁の壁。
- 構造:不採算店はスクラップ&ビルドが加速する一方、新規参入は継続し新陳代謝は速い。
- 打ち手:回転率×粗利でPLを“先に”決める。熱源・仕込み・メニュー貢献を再設計し、心理的価格設計で客数の弾性に備える。
ももはな (id:however-down)さん
リクエストの「唐揚げ店」については明日!
ご紹介します