経営者が考える有給休暇は、「従業員の持続的なパフォーマンスを支えるための経営戦略投資」であり、「生産性向上や離職防止につながる重要な資源」です。一方、現場が考える有給休暇は「心身の疲労回復を保証する労働者の権利」であり、自身の都合に合わせて「賃金が減額されない休息日」として捉えられています。両者の視点には違いがあるものの、有給休暇の取得を推進することが、健康で前向きな人材の維持・定着につながるという点は共通しています。

- 1. はじめに
- 2. 経営者の立場から見た「有給休暇」
- 3. 管理職・現場リーダーの立場から見た「有給休暇」
- 4. 現場社員の立場から見た「有給休暇」
- 5. 「取らせたくない」の本音とは?
- 6. 法律と制度改革の視点
- 7. 今後の課題と改善策
- 8. まとめ
1. はじめに

日本の労働環境において「有給休暇(年次有給休暇)」は、労働者にとって重要な権利であり、心身のリフレッシュやワークライフバランスの実現に不可欠なものです。
しかし実際の職場に目を向けると、有給を気軽に取得できる職場もあれば、なかなか取りにくい雰囲気が漂う会社も少なくありません。経営者や管理職、さらには現場社員の立場によって「有給」に対する考え方や捉え方は大きく異なります。
本稿では、経営者・管理職・現場社員のそれぞれの視点から「有給休暇」に対する考え方を整理し、なぜ「取らせたくない」と思う企業があるのか、その背景や実態について掘り下げます。さらに、法的観点や今後の働き方改革に向けた方向性もあわせて考察します。
2. 経営者の立場から見た「有給休暇」

2-1. コストと生産性のバランス
経営者にとって有給は「法律で認められた労働者の権利」である一方で、人件費や業務効率への影響を強く意識せざるを得ません。
- 有給を取っても給料は発生する(=会社から見れば「労働していないのにコストが発生」)。
- 少人数の職場では誰かが休めば残業や応援要員が必要になり、結果的にコスト増や業務停滞につながる。
特に中小企業では人員が限られているため、有給取得が経営に直接響くと考える経営者は少なくありません。
2-2. 顧客対応や納期への懸念
製造業やサービス業においては「納期厳守」や「顧客第一」が重視されます。有給を取ることによって、
- 顧客への対応が遅れる
- チームの生産性が落ちる
- 他の社員に負担が偏る
といったリスクが発生します。
経営者としては「顧客を失うリスク > 社員の休養」と捉える傾向があるため、どうしても「なるべく取らせたくない」という意識が働くことがあります。
2-3. 「制度はあるが実態は…」
法律上、有給休暇の付与は義務であり、2019年からは「年5日の取得義務化」もスタートしました。しかし経営者の一部は「最低限の義務さえ果たせばよい」と考えており、積極的に推進する姿勢を持たない場合があります。
3. 管理職・現場リーダーの立場から見た「有給休暇」

3-1. チーム運営の難しさ
現場の管理職は「経営者の意向」と「社員の希望」の板挟みになりがちです。
- 部下が有給を申請しても、チームの人数や納期を考えると承認しにくい。
- 自分も有給を取りたいが、部下に示しがつかないと考えて我慢する。
このように「制度としては正しいが、現実的に難しい」というジレンマに直面します。
3-2. 「自己犠牲」型リーダーシップ
日本企業には「上司は率先して働くべき」という価値観が根強く残っています。管理職自身が有給を取りづらく、その結果、部下にも「休みにくい空気」を与えてしまうケースが多いのです。
4. 現場社員の立場から見た「有給休暇」

4-1. 罪悪感と同調圧力
多くの社員が抱くのは「有給は権利だと分かっているが、取りづらい」という思いです。
- 自分が休むと同僚に迷惑がかかる
- 上司が嫌な顔をする
- 昇進や評価に影響するかもしれない
このような心理的要因が、法的には保証されているはずの有給を「使えない制度」に変えてしまっています。
4-2. 「有給の使い道」の違い
現場社員の中でも有給に対する考え方は様々です。
- 休養型:心身のリフレッシュを目的に取得
- 家庭型:子育て・介護・家族行事のために取得
- 旅行型:余暇や趣味のために活用
- 調整型:体調不良や突発的な用事のために消化
このように多様なニーズがあるものの、職場文化によっては「遊び目的での有給は許されない」といった暗黙のルールが存在する場合もあります。
5. 「取らせたくない」の本音とは?

経営者や管理職が「取らせたくない」と感じる背景には、次のような要素が複雑に絡み合っています。
- 業務負担の偏り:特定の人が休むと残業や追加業務が他に集中する。
- 生産性の低下:一時的に人手が足りなくなり、効率が落ちる。
- 顧客第一主義:顧客満足度を優先し、社員の休暇が後回しになる。
- 評価制度の未整備:有給を積極的に取る人を「やる気がない」と見なしてしまう。
- 職場文化:長時間労働や「我慢は美徳」という価値観が残っている。
6. 法律と制度改革の視点

労働基準法では、労働者が有給を取得する権利は明確に保障されています。さらに「5日間の取得義務化」により、企業は少なくとも年5日は有給を取らせなければなりません。
しかし実態を見ると、義務化以降も「最低限しか取らせない」「形だけ取得(研修日を有給扱いにする等)」といった運用が行われるケースも報告されています。
働き方改革の流れとしては、今後ますます「有給の取得率向上」が求められるでしょう。
7. 今後の課題と改善策

7-1. 経営者側の意識改革
- 有給取得が社員のモチベーションや生産性向上につながることを理解する。
- 「休ませることがコスト」ではなく「休ませることが投資」と捉える。
7-2. 管理職の役割
- 自ら率先して有給を取り、部下に「休んでよい」というメッセージを示す。
- 業務の属人化を防ぎ、誰が休んでも回る仕組みを整える。
7-3. 現場社員の行動
- 遠慮せず、正当な権利として有給を申請する。
- チームで協力し合い、休暇を取りやすい雰囲気をつくる。
8. まとめ

「有給休暇を取らせたくない」という企業の背景には、単なる意地悪ではなく、経営上の不安・現場の業務負担・職場文化といった多くの要素が絡み合っています。
しかし、働き方改革が進む現代において、休暇を取らせない企業は優秀な人材の流出を招き、結果的に経営リスクを高めることになります。
有給は「権利」であると同時に、社員が健全に働き続けるための「必要な制度」であることを再認識し、組織全体で休暇を推進する姿勢が求められます。
