近年、世界中で旅行を楽しむ人が増えていますが、観光地に多くの人が押し寄せてしまい、その結果、地域住民や環境などに悪影響を与える「オーバーツーリズム」が問題となっています。
この問題は、日本だけでなく世界の観光地でも顕在化してきています。観光地は、その地域を支える主要産業となっている所も多く、住民の生活や企業の利益を守りつつ「持続可能な観光」の在り方についての取り組みに注目が集まっています。観光地に観光客が増えることは、その地域の経済発展につながりますが、その規模が一定の値を超えてしまうと、その地域の環境や住んでいる人達の生活に悪影響を及ぼす可能性があります。

- 現在の観光地の悩み ― 持続可能性をめぐる課題
- 2. オーバーツーリズムの深刻化
- 3. 地域経済と住民生活の乖離
- 4. 人手不足と労働環境
- 5. 観光資源の保護と環境問題
- 6. 季節・地域格差
- 7. コロナ後の需要変化とデジタル化
- 8. まとめ ― 観光地の未来へ
現在の観光地の悩み ― 持続可能性をめぐる課題

1. はじめに
観光は「平和産業」とも呼ばれるほど、多くの国や地域で重要な経済基盤となっています。日本においても観光は「成長戦略の柱」と位置づけられ、観光立国を目指して政策が展開されてきました。2019年には訪日外国人旅行者数が3,188万人に達し、観光地はかつてない活況を呈しました。しかしその一方で、観光地には新たな「悩み」や「矛盾」が顕在化しています。新型コロナウイルスの流行を経て状況は一変し、観光地の課題はより複雑化しました。
観光地の悩みを整理すると、大きく以下の6つに分けることができます。
- オーバーツーリズム
- 地域経済と住民生活の乖離
- 人手不足と労働環境の厳しさ
- 観光資源の保護と環境問題
- 観光の季節・地域格差
- コロナ後の観光需要変化とデジタル化への遅れ
以下、それぞれについて詳しく見ていきます。
2. オーバーツーリズムの深刻化

観光地の悩みとして最も注目されるのが「オーバーツーリズム(観光公害)」です。これは観光客が過剰に集中することで、地域社会や環境に悪影響を及ぼす現象を指します。
(1) 代表的な事例
- 京都:清水寺や祇園などで外国人観光客が急増し、生活道路の混雑、宿泊施設の乱立、マナー問題が深刻化。
- 鎌倉:小町通りなどが常に混雑し、住民の生活動線が阻害される。
- 富士山:登山客の増加に伴いゴミ問題や自然破壊が顕在化。
(2) 問題点
- 観光客が「歓迎される存在」から「迷惑な存在」に転じてしまう。
- 地域住民が観光に否定的になり、観光地の魅力が損なわれる。
- 文化財や自然景観が物理的に損傷する。
つまり「人気が出れば出るほど地域が疲弊する」という逆説が観光地の悩みとなっているのです。
3. 地域経済と住民生活の乖離

観光地は地域経済の重要な柱ですが、その恩恵が住民全体に行き渡らないケースが多々あります。
(1) 経済効果の偏り
観光収入はホテルや大手旅行代理店、外資系プラットフォームに流れやすく、地元の小規模事業者や商店には十分に還元されないことがあります。例えば「民泊ブーム」では、地域外の投資家が運営するケースが多く、地元に残る利益は限定的でした。
(2) 生活コストの上昇
観光客増加により、
- 地価や家賃の高騰
- 生活道路の渋滞
- 公共交通機関の混雑
などが起こり、住民の生活が不便になることもあります。京都や沖縄では、観光の恩恵と同時に「住みにくさ」への不満が噴出しているのが現状です。
4. 人手不足と労働環境

観光地を支えるのは宿泊業、飲食業、交通業などのサービス産業ですが、これらの分野は慢性的な人手不足に悩まされています。
(1) 労働環境の厳しさ
- 長時間労働
- 低賃金
- 不安定な雇用(繁忙期・閑散期による収入差)
このような状況から若者や後継者が定着せず、特に地方観光地では「観光サービスの担い手」が失われつつあります。
(2) コロナ禍でのダメージ
コロナ禍により観光需要が激減し、多くの宿泊施設や飲食店が休業・廃業しました。その結果、経験豊富な人材が業界から流出し、需要が回復した現在も人材不足が解消されないという悪循環が生まれています。
5. 観光資源の保護と環境問題

観光地は「自然」や「文化財」といった貴重な資源の上に成り立っています。しかし観光開発が進みすぎると、逆にその資源を破壊してしまうリスクがあります。
(1) 自然環境の破壊
- 富士山登山者の増加によるゴミ問題
- 沖縄や奄美でのリゾート開発に伴うサンゴ礁破壊
- 登山やトレッキング人気による希少植物の踏み荒らし
(2) 文化財の損傷
- 世界遺産や寺社仏閣での観光客過多による磨耗・破損
- フラッシュ撮影や落書きなどマナー違反行為
(3) 持続可能性への課題
「観光客を増やすこと」と「資源を守ること」は時に相反するものであり、そのバランスをどう取るかが観光地の大きな悩みとなっています。
6. 季節・地域格差

観光には「時間的な偏り」と「地域的な偏り」が存在します。
(1) 季節格差
観光地は「ハイシーズン」と「オフシーズン」の差が大きく、閑散期には収入が途絶えます。例えばスキー場は冬に集中し、夏場は閑散とします。このため通年での経営が難しいという悩みがあります。
(2) 地域格差
東京・大阪・京都・沖縄などの有名観光地に人が集中する一方で、地方の多くは観光資源があっても十分に知られず、観光客を呼び込めません。地方創生政策の中で「観光による地域活性化」が叫ばれていますが、情報発信や交通アクセスの課題が大きく立ちはだかっています。
7. コロナ後の需要変化とデジタル化

(1) 旅行スタイルの変化
コロナ禍を経て、観光需要には大きな変化が生じました。
- 団体旅行から個人・小グループ旅行へ
- 都市観光から自然体験・アウトドアへ
- 観光消費から「体験型・学び型」へのシフト
従来の観光地がこうした変化に対応できず、集客に苦戦しているケースもあります。
(2) デジタル化の遅れ
世界的に観光はデジタル化が進んでいます。オンライン予約、キャッシュレス決済、AR/VRを用いた体験提供などが一般化していますが、日本の観光地はデジタル対応が遅れがちです。特に地方では、外国人向けの多言語対応やキャッシュレス環境が整っていないため、観光客の利便性が損なわれています。
8. まとめ ― 観光地の未来へ

現在の観光地の悩みは「人が来ない」ではなく「来すぎる」「持続できない」「支える人がいない」といった複雑な課題へとシフトしています。オーバーツーリズム、住民生活との摩擦、環境負荷、人材不足、需要変化への対応など、多方面にわたる問題が同時に存在しています。
今後の観光地に求められるのは、単に「観光客を増やす」ことではなく、
- 持続可能な観光:環境・文化を守りながら収益を上げる
- 地域共生型観光:住民が誇りを持ち、生活も守られる観光地づくり
- デジタルと体験型の融合:時代の変化に即したサービス提供
- 分散型観光:人の流れを地方に広げる工夫
といった新しい観光地モデルの構築です。
観光地の「悩み」は裏を返せば「成長の可能性」でもあります。観光地が直面する課題を一つずつ克服していくことが、日本の観光の未来を切り拓く鍵となるでしょう。
