米が高くなり、飲食店は値上げを我慢するべきか?」というテーマは、物価高騰が続く現代の飲食業界にとって非常に切実な問題です。
- 米が高くなり飲食店は値上げを我慢するべきか?
- 値上げを我慢し続けるリスク
- 値上げは悪か?戦略的価格転嫁のススメ
- 価格以上の“価値”を提供する
- 小さな値上げは未来への投資
- 値上げは「悪」ではなく、「選択肢」
米が高くなり飲食店は値上げを我慢するべきか?
価格転嫁と経営のはざまで揺れる現場のリアル
問題の出発点:「米価高騰」の現実
日本における主食である「米」の価格が近年上昇しています。その要因は多岐にわたります。
・気候変動による不作(高温・水不足・災害)
・肥料や燃料などのコスト増(原油高・円安)
・物流費や人件費の上昇
・農家の高齢化・生産減少
これらにより、生産者側が出荷価格を上げざるを得なくなっているのが現実です。政府の備蓄米や補助金政策もありますが、効果は一時的で、飲食店が直接仕入れる「業務用米」の価格はじわじわと上昇しています。
2024年時点では、10kgあたりの業務用米が数百円から千円近く値上がりしており、日々のコストを左右する「主食」の上昇は、ラーメン店、定食屋、カフェ、和食店などに大きな影響を与えています。
値上げできない飲食店のジレンマ
飲食店経営者にとって「値上げするか否か」は、売上と顧客の信頼を左右する非常にセンシティブな問題です。
我慢の理由
・顧客離れへの恐怖:「値上げしたら客足が遠のくかも…」
・近隣との競争:「隣の店は据え置きのままだし…」
・価格に敏感な常連客:「地域密着型の店だから強気に出られない」
・“庶民の味方”という自負:「安くてうまいがウチの売り」
こうした感情や状況により、「少しぐらいの原材料高は我慢しよう」「量を減らして誤魔化そう」「人件費を削ろう」といった“耐える経営”に走るケースが少なくありません。
値上げを我慢し続けるリスク
一見、値上げを我慢するのは“顧客思い”に見えますが、そこにはいくつものリスクがあります。
(1)利益率の悪化
売価が同じでも仕入れ値が上がれば、当然利益は削られます。限界利益率が低下すれば、わずかな売上減でも赤字転落につながります。
(2)従業員へのしわ寄せ
人件費を削ったり、過重労働を強いたりすることで、スタッフの定着率が悪化します。「安くてうまい店」でも、スタッフが疲弊すれば接客や料理の質も下がります。
(3)品質の低下
材料をグレードダウンすることで、味が変わってしまい、常連が「なんか最近おいしくない」と感じて離れるケースも。
(4)経営者自身の疲弊
長期的な“我慢経営”は、心身への負担が大きく、精神的な消耗も深刻です。最終的には「もうやっていけない」と廃業に至る可能性も。
値上げは悪か?戦略的価格転嫁のススメ
では、飲食店は「値上げ」を選択すべきなのでしょうか?答えは「YES。ただし戦略的に」です。
(1)価格転嫁は生存戦略
多くの経済学者や中小企業診断士も指摘しているように、現在のコスト上昇は一時的ではなく「構造的」です。つまり、「値上げをしない」という選択は、中長期的にみて“経営放棄”に近いリスクがあります。
(2)お客様は理解している
実は、2020年以降のコロナ禍や物価高を経て、消費者も「値上げは仕方ない」という感覚を持ちつつあります。特に、良心的な店・誠実な対応をしている店に対しては、応援したい気持ちがあるのです。
(3)「値上げの仕方」が重要
たとえば、以下のような工夫が効果的です。
・「10円、20円単位の小幅値上げ」から始める
・「価格は据え置きで、小盛と並盛を選べるようにする」
・「値上げの理由をポップやメニュー表に明示」
・「期間限定の価格アップで段階的に浸透させる」
・「新メニューを導入して価格の幅をつける」
価格以上の“価値”を提供する
値上げを納得してもらうには、「この価格でも行く価値がある」と思わせることがカギです。つまり、価格より価値が上回れば、客は離れない。
提案例
・米にこだわる(新潟産コシヒカリ使用など)→ 価値強調
・土鍋ごはん、釜炊きで提供 → 演出効果
・食後に無料の一品やサービス → 体験の充実
・店主の思いを伝える → 心が動くストーリー
「この店がつぶれたら困る」とお客様に思わせたら、それは値上げしても成立する“絆”です。
小さな値上げは未来への投資
我慢して続けるだけの時代は終わりました。持続可能な飲食経営とは、「お客様にも、スタッフにも、経営者にも優しいバランス」です。小さな値上げは、料理の品質、従業員の笑顔、店の未来を守るための“投資”と考えるべきです。
値上げは「悪」ではなく、「選択肢」
「米が高くなっても値上げを我慢するべきか?」という問いに対して、答えはこうです。
“我慢”だけでは続けられない。“戦略的に値上げ”することで、未来のお客様を守るべきである。
無理して耐えることが美徳だった時代は過ぎ、今は“正直に伝え、正当にいただく”時代。飲食店は地域の暮らしを支える大切な存在です。だからこそ、持続可能な経営を目指すためにも、値上げは“避けるべきもの”ではなく、“工夫して実現するべきもの”として捉えるべきなのです。