「一流になるには1万時間かかる」
「プロになるには1万時間以上練習しないといけない」
こんな話を聞いたことはありませんか? このような言説は「1万時間の法則」に由来するものです。
「天才は1%のひらめきと99%の努力でできている」という言葉もあるように、努力や練習の大切さは誰もが知っています。しかし、本当に1万時間も必要なのでしょうか?
20時間の法則
サクッとできるだけなら「20時間の法則」はその名の通り、たったの20時間で何かのスキルを習得しようというものです。作家のジョシュ・カウフマン氏が提唱しました。
- 1日1時間弱の練習なら1ヶ月
- 毎日3時間集中するなら1週間
でスキル習得が可能ということになりますね。
世間一般では後述する「1万時間の法則」がよく知られていますが、これはその分野のスペシャリスト、つまり一流になるための時間。
そうではなく、サクッと絵を描いたり、楽器を弾いたりできるレベルになるには、どれくらい時間が必要なんだろう?
そう思ったカウフマン氏が方々調べたところ、20時間あればスキル習得は可能ということでした。
ステップ1:スキルを分解し、必要なスキルを見極める
「プログラミング」とか「野球」とか、いろんな種類のスキルがありますが、これらの中にはさらに細かいスキルが内包されています。いま必要なスキルはその全部ではないはずですね。
プログラミングで、ホームページを作るだけなら「HTML」「CSS」「PHP」のスキルだけで済みます。草野球に出るなら、とりあえずキャッチボールとバッティングだけで済みそうです。
もう少し丁寧に言えば、
- まずスキル習得の目的を定める
- 目的達成に必要なスキルだけを選ぶ
ということですね。
カウフマン氏が出した例はウクレレ。ウクレレには何百種類というコードがあり、それらを覚えるのはかなり大変です。
ですが、1曲で使うコードは4〜5種類。これだけ覚えれば1曲弾けるようになります。さらに大抵のポップソングは、共通の4種類のコードを覚えれば弾けてしまうんだそうです。
的を絞ることで、必要なスキルもまたグッと絞れるのです。ここが「20時間の法則」の肝の部分になります。
ステップ2:教材を使って練習&修正していく
ありがちなパターンとして、教材をたくさん買い込み、全部読んでから始めようとしてしまいます。ですが、それではスタートが遅くなってしまうので、20時間では終わりません。
実際の練習をすると、よくわからない箇所や難しい箇所にぶち当たります。その際は教材を見ながら適宜修正していくイメージです。
ステップ3:気が散るものを取り除く
ことさら触れるほどの話でもありませんが、テレビやスマホゲームのような、気が散るものはなるべく遠くに置きましょう。
「20時間の法則」は、真剣に20時間取り組めばできるようになるという話です。テレビを見ながらなんとなく20時間やっても、スキルは習得できません。
あとは20時間学習を続ければ、大抵のことはできてしまうというわけです。
基本的にはこの20時間で学んだスキルを、そのままキャリアの強みにするわけではありません。目の前にある課題をクリアするためや、単に楽しむために習得するイメージです。
例えば
英語の習得は難しいけど、
海外旅行に行くための英語だったら、
20時間くらいで十分学べてしまうかもしれません。
1,000時間の法則
中級者なら「1,000時間の法則」は、その分野の「セミプロ」「中上級者」になるためには1,000時間の学習が必要という考え方です。
1,000時間の法則は、誰が提唱したとか、科学的な根拠などがあるわけではないようです。
後述の「1万時間の法則」の10分の1という、キリの良い数字が使われているだけかもしれません。
ただ大抵のことは、学習始めたてで勢いよく伸びていき、その後どんどん成長度合いが鈍くなっていきます。上級者から一流に至る壁は厚く、もう少しの詰めに何年もかかりします。
似たような話で、プレゼン資料や、学校のレポート、アート作品などは、完成度80%→100%にかかる労力は、体感で全体の5,6割くらいかかる印象です。
一流のスキルが完成度100%として、
完成度50%くらいの中級者スキルに到達するのに必要な時間が、
10分の1で済むのはそこまで不思議ではありません。
1,000時間は現実路線で目指しやすい
「1,000時間」と聞くと、ピンと来ないので、数字を分解して考えましょう。
- 1日1時間の学習なら、約2年半ちょっと
- 1日3時間の学習なら、1年弱
で、一定のスキルを習得できることになります。なかなかリーズナブルな印象ではないでしょうか?
一流には至れないないものの、
世の中に一流でなければ務まらない仕事なんてほとんどありません。
1,000時間で習得したスキルでお金を稼ぐことも十分可能でしょう。
1万時間の法則
「1万時間の法則」は、その分野で一流と言われる成功者になるためには、1万時間の学習が必要という考え方です。
1万時間もすぐにピンと来ない数字ですね。
- フルタイムの仕事(1日8時間を週5日)で、約5年間
- 1日3時間の学習で、9年ちょっと
というイメージです。
この法則の発端は、心理学者のアンダース・エリクソン氏の研究。
氏の研究によれば、スポーツや音楽で一流と呼ばれている人たちの学習期間が、平均10,000時間だったとのこと。
ちなみに、この時点では「1万時間の法則」という名前はついていませんでした。
のちに英国人作家のマルコム・グラッドウェル氏の著書『天才!成功する人々の法則(原タイトル:Outliers)』で、エリクソン氏の研究を引用する形で、「1万時間の法則」が世に広まることになります。
1日あたり60分間(1時間)勉強した場合に30年間
1日あたり120分間(2時間)勉強した場合に15年間
かかるという計算になります。
1万時間の法則はウソなのか?
「1万時間の法則」という言葉を聞くと、さも「1万時間学習すれば、自分も一流になれる!」と思ってしまいます。
結論を先に言えば、そんな甘い話はありません。発端となるエリクソン氏の研究を思い出してみましょう。
一流の人の「平均学習期間が1万時間だった」というだけで、もっとたくさん学習した人もいれば、少ない学習期間で一流になった人もいます。
加えて重要なのは、研究対象になったのは成功者だけで、その裏には1万時間学習しても一流になれなかった人がいるわけです。
人気ボクシング漫画の『はじめの一歩』で、鴨川会長も言っています。
言い換えると、「1万時間学習しても成功するとは限らない。しかし、成功した人は平均1万時間学習している」となりますね。
練習量が全てではない
1万時間の法則に対する反論として、しばしば聞かれるのは、「練習量が全てではない」というもの。つまり、個人の努力のほか、持って生まれた才能や環境も、成功の可否に影響しているという主張です。
認知心理学を専門とするブルック・マクナマラ准教授(米ケース・ウェスタン・リザーブ大学)は、1万時間の法則は問題を「単純化しすぎている」と指摘しました。
技能の発達には、環境要因や遺伝的要因などが複雑に影響しているというのです。
マクナマラ准教授の指摘に対し、エリクソン教授と共著で1993年の論文を発表したラルフ・クランプ教授(ルーヴァン・カトリック大学)は「練習時間だけが全てを決めるとは思っていない」と返しています。
ただ時間をかければ良いわけではない
「20時間の法則」「1,000時間の法則」「1万時間の法則」、全てに共通しますが、ただ時間をかければスキルを習得できるというわけではありません。
時間とは言わば、学習の「量」に当たりますが、当然ながら、学習の「質」も伴わなければ、上達は見込めません。
スキルの掛け合わせで希少な人材になる方法
パターン1:「1万時間」で一流を目指す
まず最初のパターンは、一つのスキルで圧倒的に突き抜けるやり方です。
何かのジャンルで「第一人者」のポジションを築ければ、安定した収入も得られるでしょう。希少な存在なので、得られる対価も大きくなるかもしれません。
ただし余程好きなことでなければ、10,000時間も費やすのは難しい。徹底的に自己分析を行い、「これは!」と思うジャンルに出会ったら目指したい選択肢ですね。
また茨の道でもあることも覚悟が必要。一流となると、生まれ持った才能も影響しますし、伸び悩みに苦しむことも多いのではないでしょうか。
なお仮に1流になれなかった場合でも、尋常ではない経験をしているので、世間一般から見れば十分外れ値です。他の「1,000時間」レベルのスキルを掛け合わせれば、希少な人材になれるでしょう。
パターン2:「1,000時間」×3つのスキルで希少になる
多くの人にリーズナブルなのは、「1,000時間」で培った中級者スキルを3つ掛け合わせるというもの。
1,000時間の学習をすれば、100人に1人くらいのスキルにはなっているはずです。このスキルを3つ掛け合わせれば、「100×100×100=100万人に1人」になれます。
1日2〜3時間の学習で1ジャンル攻略できるので、3年で100万人に1人の人材になれる算段です。
欲張ってもう一つ100人に1人のスキルを習得すれば、なんと「1億人に1人の逸材」に!
もちろんその可能性は大いにあります。ただ効率的にキャリアを形成していくなら、関連があるジャンルのスキルを習得していくなど、戦略的にスキルを学ぶ方が良いでしょう。
パターン3:たくさんの「20時間」のスキルでジェネラリスト
「20時間」でとりあえずできることがいっぱいある状態です。
知識が0じゃなければ、専門スキルがある外注スタッフに指示出しできるので、思った以上に活躍の幅は広がります。規模の小さい会社や初期のスタートアップでは、「何でもできる人」が重宝されます。
できれば、「1,000時間」レベルのスキルが1つか2つあると良いですね。メインのスキルに加えて、「20時間」のスキルが色々ある「ジェネラリスト」のポジションです。