日常生活の中で、“ストレス”という言葉は気軽に使われています。
例えば、「最近ストレスがたまっている」とか「運動でストレス発散しよう」など様々な場面でストレスという言葉が用いられています。では、このストレスとういう言葉はいつから使われるようになったのでしょうか?
元々“ストレス”という言葉は物理学で使われていて、「外からかかる力による物質の歪(ひず)み」のことを意味していました。人では、カナダのセリエ博士が1936年に“ストレス学説”を発表したことから、医学の世界でもこの言葉が使われ始めました。医学的には、外からの刺激に対するからだやこころの反応のことを“ストレス反応”と呼び、その反応を生じさせる刺激(ストレスの原因)のことを“ストレッサー”と呼んでいます。一般に言うストレスはこの両方の意味を含んでいます。
ストレスの現状
少子高齢化、団塊世代の大量退職、成果主義の導入、国際競争の激化、人員削減による負担の増大、経済状況の悪化など、近年、働く人々を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした変化に伴い、仕事でストレスを感じている労働者の割合や、ストレスの内容も変化してきました。
この割合を年代別に見てみると(2012年の調査結果)、58.2%(20歳代)、65.2%(30歳代)、64.6%(40歳代)、59.1%(50歳代)、46.9%(60歳以上)と推移しており、30歳代・40歳代のいわゆる働き盛り世代のストレスが高く、この傾向は男女ともに共通しています。
一方、女性では人間関係(48.6%)でストレスを自覚している人が約半数を占め、続いて仕事の質(30.9%)、仕事の量(27.0%)と続いています。
これらの結果は、仕事で経験するストレスの内容が性別によって異なることを示しています。職場でストレス対策を進める際には、これらの内容の違いを十分に考慮する必要があると言えるでしょう。
ストレスとは
ストレスという用語は、もともと物理学の分野で使われていたもので、物体の外側からかけられた圧力によって歪みが生じた状態を言います。
ストレスを風船にたとえてみると、風船を指で押さえる力をストレッサーと言い、ストレッサーによって風船が歪んだ状態をストレス反応と言います。
こころや体にかかる外部からの刺激をストレッサーと言い、ストレッサーに適応しようとして、こころや体に生じたさまざまな反応をストレス反応と言います。 私たちのこころや体に影響を及ぼすストレッサーには、「物理的ストレッサー」(暑さや寒さ、騒音や混雑など)、「化学的ストレッサー」(公害物質、薬物、酸素欠乏・過剰、一酸化炭素など)、「心理・社会的ストレッサー」(人間関係や仕事上の問題、家庭の問題など)があります。
普段私たちが「ストレス」と言っているものの多くは、この「心理・社会的ストレッサー」のことを指しています。職場では、仕事の量や質、対人関係をはじめ、さまざまな要因がストレッサーとなりうることが分かっています。
ストレッサーによって引き起こされるストレス反応は、心理面、身体面、行動面の3つに分けることができます。心理面でのストレス反応には、活気の低下、イライラ、不安、抑うつ(気分の落ち込み、興味・関心の低下)などがあります。
身体面でのストレス反応
体のふしぶしの痛み、頭痛、肩こり、腰痛、目の疲れ、動悸や息切れ、胃痛、食欲低下、便秘や下痢、不眠などさまざまな症状があります。
また、行動面でのストレス反応には、飲酒量や喫煙量の増加、仕事でのミスや事故、ヒヤリハットの増加などがあります。
ストレス反応が長く続く場合は
過剰なストレス状態に陥っているサインかもしれません。これらの症状に気づいたら、普段の生活を振り返り、ストレスと上手に付き合うための方法(コーピング)を工夫してみることをおすすめします。
また、これらの症状の程度が重かったり長期間続いたりする場合は、専門家(精神科、心療内科)に相談することをおすすめします。
ストレスと関連する疾患は?
下記のような疾患がストレスと関連があると報告されています。
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高血圧、脳卒中、虚血性心疾患
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胃・十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群
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パニックディスオーダー
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拒食症、過食症
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慢性腰痛、頭痛、肩こり、筋肉痛、書痙
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甲状腺機能異常、慢性関節リウマチ、膠原病
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気管支喘息、過換気症候群
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アトピー性皮膚炎、慢性じんま疹
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めまい症、低血圧症候群、自律神経失調症
ストレス関連疾患を予防するためには?
① 自分のストレスに気づきましょう!
ストレス対処の第一歩は自分のストレス、そしてストレスから起こるこころ及び体調の変化に気づくことです。特に「気分が沈む」、「何をするのにもやる気が出ない」などのこころの症状に加えて、「頭が重い」、「めまいがする」、「息苦しい」など原因不明の体調の変化に関する症状が続く場合には、ストレスから起こる症状である可能性があります。
② 健診を受けましょう!
ストレスによる身体の影響を早く発見するために、高血圧、脂質異常、糖尿病など、初期には症状がない生活習慣病を、定期的に健診を受診することによって管理しましょう。
③ 生活習慣に気をつけましょう!
普段から身体活動量が多い人や定期的に運動を行っている人では、うつが起こりにことに加え、うつ症状を既に持っている人においても定期的な有酸素運動が症状改善に効果があることが報告されています。また。野菜、果物、魚、全粒粉を含む健康的な食事がうつ症状のリスクを減少させることが示されています。
④ 睡眠を十分にとりましょう!
睡眠の質・量を十分に確保することは、ストレス耐性を高めます。逆に、急に眠れなくなったり、朝に起きれなくなったりすることが、ストレスのサインである可能性があります。
⑤ ストレス解消しましょう!
趣味や運動等で気分転換すること、また友人とのおしゃべりなどでストレスを発散することはストレス対策として有用です。少しの時間でもストレスを忘れることがストレスの悪循環を予防します。
⑥ 誰かに相談しましょう!
家族や友人に相談することは、ストレスによる心身への影響を弱める働きがあります。話を聞いてもらうだけでも心理的な安心感が得られたり、相談しているうちに、自分の頭の中でストレスの原因が整理できる効果もあります。
⑦ こころとからだをリラックスしましょう!
趣味、入浴、ストレッチなどの軽い運動など、1日に最低30分は自分のためだけの時間を作り、こころとからだをリラックスしましょう。
⑧ 日記を書いてみましょう!
日記を書くことによって客観的にストレスを振り返ることができるようになるだけでなく、良いことを探して日記に書くようにすると、物事を前向きにとらえられるようになります。
⑨ 1日1回は声を出して笑いましょう!
笑うことによってストレス関連ホルモン及び血糖値の低下や不眠の解消に繋がることが報告されています。面白いから笑うのはあたりまえで、面白いことを見つけて、そして面白くなくてもとりあえず笑ってみると意外に気分がすっきりします。
⑩ 人生の目標を持ちましょう!
人生の目標を持っていると、多少のストレスがあっても動じにくくなります。例え小さい目標でもよいので、何らかの目標(希望)を持つようにしましょう。アウシュビッツ収容所を経験したヴィクトール・フランクルは、「希望」と「ユーモア」を持ち続けることが、過酷な環境を生き抜く上での重要なキーワードであったことを著書の中で述べています。