飲食店やスーパー、コンビニといった小売店などで、問題のある客に対して、お店側の判断で、今後の入店を禁止するという措置のことを指します。
飲食店やスーパー、コンビニは、お客様に来てもらって食事をしてもらったり、商品を購入してもらったりすることで売上をあげるわけですので、通常は多くの人に来てもらうために、日々様々な工夫をしています。
店舗を「出禁」になった客は、永久にその店舗へ来店することはできないのでしょうか? 懲りずに来店するのは違法なのでしょうか?
今回は、飲食店などの「出禁」とは何かについて、法的な観点から考えてみたいと思います。
- 「出禁」の法的な意味合い
- 店舗には客を選ぶ権利がある
- 犯罪をされた場合
- 悪質なクレーマー
- ドレスコードを守らない場合
- 「出禁」の理由は何でもよいのか?
- 「出禁」になった店舗へ懲りずに来店したら違法?
- 出禁の法的効力
- 相手を出禁にしたい!伝える際の注意点
- 悪質なクレーマーの場合
- ドレスコード違反などの場合
「出禁」の法的な意味合い
まず、店舗側の主張する「出禁」が、法的にどのような意味を持つかを考えてみます。
法的な観点から「出禁」を一言で表すと、「店舗利用契約の締結を、将来にわたって一律拒否する店舗側の意思表示」となります。
普段意識することはないかと思いますが、客が店舗を利用する場合、客と店舗の間で「契約」が締結されます。
客側は、来店あるいは注文によって、店舗に「代金を払って店舗を利用したい」と申し込みます。店舗側はそれを承諾して、客に店舗の利用を認め、オーダーに従ってサービスを提供します。
客側の申込みと、店側の承諾が合致したことにより、客と店舗の間で利用契約が成立するのです。
店舗が客に対して「出禁」を言い渡すことは、その客との利用契約の締結を、将来にわたって拒否することにほかなりません。
まだ客が来店していないうちから、「あなたとは契約を締結しません」とあらかじめ意思表示しておくということです。
店舗には客を選ぶ権利がある
店舗には、基本的に客を選ぶ権利があります。職業選択の自由の一環として、営業の自由が保障されているからです(日本国憲法21条1項)。
店舗には不特定多数の客が来店しますが、市区町村役場などのように公的な施設ではなく、あくまでも営利目的で私的に営業しているに過ぎません。
そのため、どのような客を受け入れ、どのような客を拒否するかは、原則として店舗の自由です。店舗側から嫌われるような行為をすれば、出禁を言い渡されてもやむを得ないといえます。
犯罪をされた場合
店内のものを万引きする(窃盗)、レジのお金を盗む(強盗)、商品やお店の備品を壊す(器物損壊)、酔っ払って暴れて暴力を振るう(暴行、傷害)といった犯罪をお店で行われた場合です。
このような犯罪をされた客に対して、お店としては、今後お店に来て欲しくないと考えるのは当然のことです。
悪質なクレーマー
クレームそのものは、顧客から自分のお店に対する貴重な声として、耳を傾けなければならないのが通常です。
「クレームは宝の山」という言葉もあるくらいですので、重要なものであることは間違いありません。
しかしながら、近年は、客だから大切にされて当たり前、どんなことでもクレームをいえば自分にとって有利に対応してもらえる、お客様は神様だといった考えを強くもって、攻撃的にお店を威嚇するようなクレームを出してくる、いわゆる「クレーマー」がいます。
最近では、無理難題を要求したり、しつこく店員に迫ったりする行為について、「カスタマーハラスメント」とハラスメントの一つとして認識されるようになっています。
このような、悪質なクレーマーの場合、お店としては、犯罪を行われた場合と同じく、「出禁」を検討することが考えられます。
ドレスコードを守らない場合
高級レストランやホテルなどの場合、ドレスコードを設定していることがあります。
そうしたドレスコードに明らかに反する服装などの場合、入店を断るということが考えられます。
その他にも、コロナ禍でマスクをしない客の入店を拒否するということも考えられます。
「出禁」の理由は何でもよいのか?
店舗が客に「出禁」を言い渡す理由については、憲法で保障された営業の自由に基づき、店舗側に幅広い裁量が認められます。
ただし、法の下の平等(日本国憲法14条)に反する差別的な理由で客を「出禁」にした場合は、店舗が客に対する不法行為責任を負う可能性があります(民法709条)。
私的に営業する店舗に対して、日本国憲法が直接適用されることはありません。しかし、私人間の取引においても憲法の趣旨を尊重する観点から、不法行為のルールを適用するに当たって、憲法で認められた平等・自由・権利の趣旨が考慮される場合があるのです。
たとえば、以下のような理由で店舗が客を「出禁」にした場合、不法行為が成立し得ると考えられます。
・黒人(ネグロイド)だから
・○○教を信仰しているから
・女性だから(男性専用とすべき特段の事情がある場合を除く)
・同和地区の出身だから
など
「出禁」になった店舗へ懲りずに来店したら違法?
「出禁」に違法性がない場合、店舗によって「出禁」が撤回されない限り、客は店舗を利用できなくなります。
それでも懲りずに店舗へ来店した場合、客は何らかの法的責任を問われるのでしょうか?
出禁客が来店しても、原則としてペナルティはない
「出禁」になった店舗へ来店したとしても、それだけで客が何らかの法的責任を問われることはありません。単に入店を断られるだけです。
客が店舗へ来店することは、店舗に対して利用契約の申込みを行うことを意味します。たとえ相手方に断られることが確実であっても、契約締結の申込みを行うこと自体は、法律で禁止されるわけではありません。
したがって、出禁になった店に来店して、入店させてほしいとお願いすることについては、直ちに違法ではないと考えられます。
出禁の法的効力
お店側で一定の人に対して、出禁を通知した場合、それ以降しつこく入店を迫って押しかけたり、その場に居座って離れないといった場合、その人は建造物侵入、不退去罪になる可能性が出てきます。
また、民事でも他の客の迷惑になったり、店に損害が生じた場合には、損害賠償請求を行うことができる可能性がでてきます。
実際に、損害賠償請求を行うかどうか、賠償が認められるかどうかはケース・バイ・ケースです。
しかしながら、お店側として明確に「出禁」にする旨を通知することで、相手方に対して一定の法的効力を及ぼすことにはなります。
退去要請を拒否すると、罪に問われる可能性がある
来店そのものは違法でないとしても、出禁にした客が来店した場合、店舗はすぐに退去するよう求める可能性が高いでしょう。
もし店舗から退去の要請があった場合、客は直ちに退去しなければなりません。居座って入店交渉を続けようとするのは厳禁です。
退去要請を受けたにもかかわらず、拒否して店舗から退去しなかった場合には「不退去罪」が成立します(刑法130条後段)。不退去罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
また、座り込みなどの強引な方法で居座り、店舗側の業務を妨害した場合には「威力業務妨害罪」が成立します(刑法234条)。威力業務妨害罪の法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。
相手を出禁にしたい!伝える際の注意点
お店側が先ほど紹介したような、犯罪を行われた場合や悪質なクレーマーのような場合に、出禁にしたいと考えた場合、どのように伝えるのがよいでしょうか?
犯罪が行われた場合
まず、窃盗や強盗、器物損壊や暴行、傷害といった犯罪が行われた場合には、通常、警察に通報して対応をしてもらうことが多いはずです。
警察に来てもらって対応してもらう中で、客が逮捕されて身柄を拘束された場合、弁護士が客側につく可能性があります。
いわゆる刑事弁護人です。
いずれにしても、弁護人がついた場合には、その弁護人を通じて、被害品の賠償や損害賠償の話とあわせて二度とお店に立ち入らないよう、出禁を通達することで、相手方に出禁を伝えることになります。
弁護人としても、できるだけ刑事処分を軽くするためにお店側と示談交渉を行うのが通常です。
示談が成立する場合には、示談書に、「二度とお店に立ち入らないことを約束する」といった文言を入れてもらうことが重要です。
示談ができない場合には、弁護人に対して文書で以後は出禁とする旨を通知する必要があります。
その際の文言としては、「今回、◯◯氏が行った行為は××罪という犯罪行為であり、断じて容認できません。
したがって、今後一切当店に立ち入ることを禁止しますのでその旨通知します。」といったものが考えられます。
また、犯罪が行われた場合でも警察が逮捕まではせず、弁護人がつかなかったケースでは、警察を通じて客に対して、出禁の旨を伝え、相手方から「二度とお店には近づきません」といった誓約書や念書を出してもらえるように働きかけることになります。
住所や氏名が判明している相手の場合には、お店側から書面で、出禁の旨を記載して送付することを検討します。
悪質なクレーマーの場合
住所がわかっている場合
悪質なクレーマーの場合で住所がわかっている場合には、文書にて出禁とする旨を通知することを検討します。
口頭で伝えてしまうと、どうしても後で「言った、言わない」といったトラブルに発展しがちだからです。
この場合に、文書にどこまでの事実を記載するかについては慎重に判断する必要があります。
先ほどの犯罪が行われた場合と異なり、あまり細かく事実を書きすぎると、相手方と認識が異なる部分が増えてしまい、かえって揚げ足を取られてしまうリスクが生じるからです。
他方で、何の説明もなく、一方的にただ「出禁とします。」とだけ記載して、文書を送付すれば、当然相手方は納得できず、反発を強める可能性が高まります。
したがって、送付する前にしっかりとそれまでの経緯を確認し、文書の内容を精査した上で送付するようにしてください。
クレーム対応を行う弁護士に相談して、文書の内容を弁護士が作成するという方法も有益です。
また、顧問弁護士がいるケースでは、お店の名前で送付するのではなく、顧問弁護士の名前で文書を送付してもらうということも効果的です。
住所がわかっていない場合
飲食店やスーパー、コンビニは、不特定の多くの人が利用するため、客の住所や氏名、電話番号などの文書の送付先がわからないことも多くあります。
したがって、こうした場合には、わかっている情報から住所を割り出すことができないか検討します。
どうしても住所が割り出せない場合には、お店に来たタイミングで直接書面を手渡すか、電話などの方法で出禁の旨を伝えるかを検討することになります。
書面交付ができない場合には、上述のとおり、後で言った、言わないのトラブルになる可能性があるため、会話内容を録音するなどの対策が必要になります。
ドレスコード違反などの場合
ドレスコード違反やマスクの着用義務違反といった場合、その場で、「申し訳ないですが、お客様の服装では入店できません。」、「マスクをご着用いただけないと入店はお断りさせていただいております。」といった口頭での説明を行って対応するのが通常です。
なぜなら、こうした違反は犯罪を行った場合や悪質なクレーマーと比べて、その場で事情を説明して、相手方に改善を促すことが期待できるからです。
口頭で説明した上で、あまりにしつこくクレームを言ってくるような場合には、責任者と対応を交代し、まずはその場は引き取ってもらうように話をすることになります。
もちろん、先ほど解説したとおり、あまりに恣意的に入店を拒否するようなことをすれば、かえってそうしたお店側の対応がSNSなどを通じて、広く拡散してしまって批判を浴びることになりますので、基準を明確にしておくことが必要になるでしょう。