くじらは、縄文時代から貴重なタンパク源として食べられ、骨などは生活道具の材料とされてきました。
くじら肉は、ほぼ全ての部位を美味しく食べることができるとともに、骨や髭も残らず有効に利用されます。文楽(人形浄瑠璃)の人形を動かす操作索に、くじらの髭が使われているのは有名です。
また、くじら肉は豊富な栄養素を含んでいて、最近では特に、疲労回復物質としてのアミノ酸「バレニン」が注目を集めています。
筋肉である赤身部分や皮、畝(畝須)と呼ばれる下顎から腹の部分を始め、舌(さえずり)、心臓・胃・小腸(百尋)などのもつ(内臓)も一般的に食用にされる他、尾の身と呼ばれる尾の部分は霜降りで最高の贅沢とされ、高級食材としても有名です。
商品としては、大きく「刺身」、「ベーコン」、「塩漬」、「加熱用」に分かれています。もちろん今もファンの多い「鯨大和煮缶詰」にも加工されます。
- 海外のくじらの産地はどこ?
- 日本におけるくじらの食文化の歴史
- 鯨肉の食べ方や部位の料理
- 鯨肉に含まれる栄養について
- 健康栄養源「バレニン」
- 疲れにくい体づくり
- 鯨はハイスペック健康食
- 豊富な栄養素
- くじらを食べることへの推進派と反対派の意見
海外のくじらの産地はどこ?
日本でくじらを食べたことがあるという方は多いですが、海外にも同様にくじらを食べる国が存在しています。鯨肉の主な消費国はアイスランド、ノルウェーとなっており、その他にもアメリカやロシア、デンマーク領グリーンランドの先住民、カリブ海の島国セントビンセント・グレナディーンやインドネシアにもくじらを食べる文化があります。
中でもアイスランドとノルウェーはくじらの産地として有名で、日本にもくじらを輸出しているため、スーパーなどで輸入品のくじら肉を目にしたことがある人も多いかもしれません。
とはいえ、くじらの肉を食べる国は世界全体でみてもかなり少なくなっており、日本はめずらしい文化を持つ国といういえるでしょう。
日本におけるくじらの食文化の歴史
日本は世界でみてもめずらしいくじらを食べる文化を持つ国ですが、いつ頃からくじらを食べるようになったのか気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
鯨食文化の始まりと消費の拡大
日本における捕鯨文化は縄文時代から始まったとされています。沿岸に流れ着いた寄りくじらを海からの恵みものとして活用し、食用目的以外の不可食部位は土器の製造台としても使われていました。
その後飛鳥時代に仏教の思想が日本に伝わると、一般に肉食の文化が禁止となりますが、くじらは魚とみなされ、貴重な食材として人気に。江戸時代初期までは饗応料理などに用いられたことも分っています。
江戸時代になると鯨組による組織的な捕鯨が始まり、網取り式捕鯨と呼ばれる漁法も確立。日本国内のくじらの供給量は飛躍的に上がり、内臓類なども人気を博しました。
鯨食文化の衰退と現在
くじらの供給量が上がったことでくじらを食べる文化が広まった日本でしたが、江戸時代の後期になると日本の捕鯨量は減少。この背景として、ペリー来航の後にアメリカが日本近海でくじらを乱獲し、資源状況が著しく悪化したことが挙げられます。
一時的に
くじらの供給量が少なくなった日本でしたが、明治時代後期にノルウェーから捕鯨砲による近代捕鯨が導入されたことで、捕鯨量が回復。それ以降は戦後に学校給食で子供の健康をはぐくむ貴重な食材として活躍するなど、くじらの肉は重要な役割を果たしました。
現在
アメリカを中心とした国々が捕鯨に対して反対する動きを見せたことで、くじらの供給量は大幅に減少。それでも、調査捕鯨の副産物や輸入品として、通販などでもくじらの肉を楽しむことができ、くじらを食べる文化は受け継がれています。
鯨肉の食べ方や部位の料理
●鯨の赤肉の刺身:生姜やわさびを添えて
●鯨の畝須ベーコン:ポン酢醤油やからし醤油などで
●鯨の本皮:湯通し後、酢みそ・ポン酢醤油などで。
また、みそ汁や、炊き込みご飯の具、鍋物などにも。
●鯨の珍味:さえずり(舌)や百尋(小腸)などは加熱していますので、
解凍して、そのままポン酢醤油やからし醤油などで。
●鯨を使った加工食品:カレーや竜田揚げなど、牛肉などと同じように調理ください。
また、ステーキ用の赤身肉なども。
鯨肉に含まれる栄養について
くじら肉には、ビタミンAが豊富に含まれ、高たんぱく低カロリーのヘルシーフードです。
最近では、くじらのアミノ酸「バレニン」が疲労を回復させる栄養素として注目を集めています。筋肉耐久力アップ、疲労防止・回復・抗酸化・美容にも効果があり、アレルギーの原因になりにくい為、アレルギーに悩む子供達の貴重なタンパク源になります。
鯨肉に含まれるアミノ酸「バレニン」
「バレニン」は、疲れを知らず世界中の海を泳ぎ周るくじらのパワーや持久力の秘密だと言われる、くじらの筋肉に豊富に含まれるアミノ酸の一種です。
2013年に日本鯨類研究所が行った試験でも、ヒトに対して、疲労を軽減する効果があるという結果が得られているそうです。
低カロリー高タンパク・低脂肪
午肉・豚肉・鶏肉などに比べ、低カロリー、低脂質のくじら肉は、ダイエットの強い味方。高たんぱくで栄養価が高いので食べながらきれいに痩せたい人には嬉しいお肉です。
美容や貧血でお悩みの方へ
コラーゲンが豊富なくじら肉は、美容にも効果的。また、鉄分が体内に吸収されやすいミオグロビン鉄という形で豊富に含まれているため、貧血に悩む人にオススメです。
低アレルゲンで、貴重なタンパク源
食物アレルギーに苦しむ子供たちは年々増加。鯨肉はアレルゲンが少なく、貴重なタンパク源になります。特に汚染物質の少ない南氷洋で捕獲されたくじら肉はより安全と言えるでしょう。
血液サラサラ、生活習慣の予防に
血液サラサラ作用があるIPAや、頭の働きが良くなる脂肪酸として注目されているDHAやEPAを多く含みます。悪玉コレステロールの減少、血流改善効果があり、生活習慣病の予防・改善に役立ちます。
健康栄養源「バレニン」
驚異的な生命力の秘密鯨は絶食状態で子育てをし、さらに休むことなく数千キロを泳ぎ続けることができます。このような驚きのパワーは鯨が大量に持つ「バレニン」という、アミノ酸物質に秘密があると考えられています。
疲れにくい体づくり
この「バレニン」には、マウス実験の結果から、疲労回復の効果(乳酸の分解)があることがわかっており、他にも、認知症・もの忘れの予防改善 ・活性酸素(老化物質)の除去といった効果が報告されています。
鯨はハイスペック健康食
鯨肉はビタミンAが豊富で、低脂肪・低コレステロール。高たんぱく・高鉄分で、ダイエットや筋トレに最適。さらに脂肪分は良質で、DHA・EPA・DPAを多く含み、成人病の予防に期待できる食品です。
豊富な栄養素
■バレニン(総称:イミダゾールジペプチド)
体力増強
■EPA(エイコサペンタンエン酸)
脳血栓予防
心筋梗塞予防
高血圧予防
アレルギー疾患改善
動脈硬化予防
■DHA(ドコサヘキサエン酸)
コレステロール抑制 / 免疫強化
視力回復
記憶力上昇
精神安定 / 不眠症改善
肥満予防
■DPA(ドコサペンタエン酸)
動脈硬化予防
脳梗塞予防
くじらを食べることへの推進派と反対派の意見
日本では昔からくじらを食べる文化があり、産地も多いですが、世界的に見れば捕鯨は今後さらに減少することが予想されます。
くじらを食べる推進派の意見
日本はくじらを食べる代表的な国としてくじらを食べる推進派の立場をとっています。
くじらを食べることを推奨する意見としては、商業捕鯨が中断されるきっかけとなった資源問題はすでに解決されているというものが代表的です。例えば日本で食用として人気のミンククジラは適正水準を大きく超えており、食用としても問題ないのではという声もあります。
しかし、シロナガスクジラのようにくじらの種類の中には個体数が少ないものもいます。くじらを食べる推進派も個体数が少ない種に関しては保護すべきという立場をとっている方も多く、すべてのくじらを食べることを推奨しているわけではありません。
また資源問題の他にも食物連鎖の頂点に立つくじらが増えすぎれば、海の生態系を壊してしまうという声も。くじらは年間人間が食べる水産物の3~5倍を食べており、適切に捕獲することで海の生態系を守ることができるのです。
くじらを食べる反対派の意見
これに対してくじらを食べることに反対する意見もアメリカやオーストラリアなどの国々を中心に挙がっています。
くじらを食べることに反対する国の意見として代表的なものとしては、くじらの捕獲する方法が残酷なため、くじらがかわいそうという声。他にもくじらは稀少なため保護すべきという声もあります。
くじらを食べる反対派からは日本に対して、生態調査目的として調査捕鯨を実施するのは事実上の商業捕鯨であるといった声もあり、くじらを食べる推進派と反対派の間には隔たりがあると言えます。