インボイス制度の導入に際し、飲食店経営者はその業態によって対応を迫られるところもあります。飲食店は軽減税率と標準税率の2つの税率が入り交じりやすい業務であるため、インボイス制度における消費税の扱いや、レシートの発行方法について事前に知っておく必要があります。
経営者が理解しておきたいインボイス制度とは
インボイス制度は、2023年10月1日よりスタートした「消費税の仕入税額控除」の仕組みです。飲食店経営ならびに軽減税率と大きく関係する制度であるため、事前に内容を確認しておきましょう。インボイス制度の概要と軽減税率との関係を解説します。
インボイス制度の概要
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、これまでの「区分記載請求書等保存方式」に代わる消費税の仕入税額控除方式です。
これまでは条件を満たした請求書や領収書があれば「売上に係る消費税額」から「仕入れ等に係る消費税額」を差し引けました。しかし、インボイス制度の適用後は、インボイスを発行できる事業者から交付されるインボイスが必要とされています。
事業者がインボイスを発行するには、所轄の税務署にて「インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)」として登録する必要があります。インボイス発行事業者への登録は、免税事業者でも課税事業者でもできます。
課税事業者および免税事業者は、消費税の申告義務との関係から次のようにまとめられます。
- 課税事業者:買手から預かった消費税額から支払った消費税額を差し引いて税務署へ申告し納付を行う事業者
- 免税事業者:買手から預かった消費税額の申告と納付の義務が免除された事業者
原則として課税事業者に該当するのは、基準期間または特定期間の間で「課税売上高1,000万円超」となった事業者です。基準期間と特定期間の基準を、個人事業主と法人に分けてみていきましょう。
・個人事業主の基準期間:前々年の1月1日~12月31日
・個人事業主の特定期間:前年の1月1日~6月30日
・法人の基準期間:前々年の事業年度
・法人の特定期間:前年の事業年度開始以後の6ヶ月間
軽減税率とインボイス制度の関係性
もともとインボイス制度は、取引において正確な消費税額と消費税率を把握することを目的として導入される制度です。そのため、軽減税率とインボイス制度の関係性は非常に深いといえるでしょう。
まず、2019年10月に軽減税率制度が導入され、対象となった品目に限り消費税率8%が適用されました。その時点ではインボイス制度に先駆けて「区分記載請求書等保存方式」がスタートしています。その後の2023年10月にインボイス制度が導入されるという流れです。
軽減税率の対象となるのは、「酒類・外食を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞(定期購読契約にもとづくもの)」の2種類です。具体的な品目をみていきます。
・テイクアウトや宅配の飲食料品
・有料老人ホーム等で行う飲食料品の提供
・飲食料品全般(外食は除く)
・おもちゃ付きのお菓子といった一体商品の一部および税抜価格が1万円以下・食品の価格
の占める割合が3分の2以上のもの
など
インボイスとして認められる条件のうちに、「税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率」と「税率ごとに区分した消費税額等」の記載があります。
つまり、インボイスとして発行する限り、従来の請求書では足りず記載項目を追加しなければなりません。
例えば、店内提供とテイクアウトの2択がある飲食店の場合は、軽減税率8%と標準税率10%を明確に分ける仕組みが必要です。
インボイス制度と飲食店の関わり
飲食店の業務は軽減税率と標準税率の両方を扱うことが多いため、インボイス制度への対応が強く求められる点が特徴です。また、飲食店が免税事業者に当てはまるか、課税事業者に当てはまるかによっても、インボイス制度への対応が違ってきます。
免税事業者の場合
免税事業者とは、商品やサービスの買手から預かっている消費税について、その申告や納付を免除されている事業者のことです。課税事業者は商品やサービスを販売して得た消費税を税務署に申告して納付する必要がありますが、免税事業者は預かった消費税を益税として自分の利益にできるといえます。
しかし、インボイス制度が適用された場合は、顧客との取引が減ったり打ち切りになったりする免税事業者が増えるかもしれません。
例えば、取引先が課税事業者だった場合を考えてみましょう。取引先から見ると免税事業者との取引ではインボイスの交付が受けられないため、仕入税額控除を行えません。つまり「課税仕入れれが控除できないから、インボイスを発行できるほかの取引先を探そう」と判断されるリスクがあるのです。
とはいえ、飲食店が免税事業者だった場合は、インボイス制度の影響がほかの業種と比べて少ないでしょう。なぜなら、一般に飲食店などは得意先が消費者である場合が多いため、得意先がインボイスを必要としないケースが多いからです。
しかし、影響がゼロではありません。もし飲食を会社の会議費や交際費として経費にしたい場合には、飲食店のレシートを支出根拠として利用します。そのレシートがインボイスでなければその接待費用については、原則として仕入税額控除ができません。
以上の点から、場合によっては、課税事業者になることも視野に入れた経営も考えておきましょう。免税事業者が課税事業者になるには、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し登録を受けてください。
免税事業者がインボイス登録事業者になる場合には、経過措置が設けられ、2029年9月30日までは課税事業者選択届出書の提出は不要となっています。
課税事業者の場合
課税事業者とは、買手から預かった消費税を税務署に申告し、納める義務を負った事業者です。もともと課税事業者だった飲食店の場合も「適格請求書発行事業者の登録申請書」を所轄の税務署へ提出すればインボイスを発行できます。
インボイス制度が適用された後に自社が免税事業者と取引する場合は、インボイスの交付がない取引先からの仕入分だけ消費税の負担増となります。もし取引先が免税事業者だった場合は、長年の信頼から取引を続けるのか、取引を見直すのかといった選択が必要です。
インボイス制度におけるレシート
飲食店が発行するレシートは、必要な事項を記載して発行することで簡易インボイス(適格簡易請求書)の扱いになります。簡易インボイスとは「不特定多数に対して営業を行う一定の業種」が発行できる、インボイスの内容を簡略化したものです。飲食店はその業種に当てはまります。
軽減税率対応のレシートとは
現行では多くの飲食店で発行するのは軽減税率に対応したレシートであり、軽減税率8%・標準税率10%それぞれの商品・サービスが明確に区分されたものです。
レシートがインボイスならびに簡易インボイスとして認められる条件として、適用税率や適用税率ごとの消費税額などの記載が必要になります。
レシートを簡易インボイスとして発行する具体的な記載内容は以下のとおりです。
1.インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号
(T+13桁の法人番号または13桁の数字)
2.取引年月日
3.取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
4.税率ごとに区分して合計した対価の額
「税率ごとに区分した適用税率」または「税率ごとに区分した消費税額等」
上記はあくまで簡易インボイスの記載事項になります。通常のインボイスの場合は「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」と「区分した適用税率と消費税額」の両方の記載が必要です。
なお、インボイスの記載条件さえ満たせば、レシートも簡易インボイスではなくインボイスとして発行可能です。しかし、インボイスの条件には「書類の交付を受ける事業者の氏名または名称」が含まれているため、大人数の消費者を相手にする飲食店が1人ひとりに発行するのは現実的ではありません。
飲食店を貸し切ってパーティーなどのイベントを開催したりする場合には、顧客の求めに応じて簡易インボイスではなく、顧客名の入ったインボイスの形式にするなど使い分けてもよいでしょう。
レシートと領収書の違い
飲食店ではレシートのほかにも手書きの領収書を渡すことがあります。たとえ手書きであっても、記載事項を満たしていればインボイス、または簡易インボイスとして利用できます。ただし、インボイス発行側での控えの保管も必要なので、コピーを取るなどの手間もかかります。
手書きの領収書の場合、レジを利用して機械的に発行したレシートと比べると以下のリスクが存在します。
・数値や氏名を書き間違える可能性がある
・不正や改ざんが疑われる
・一度に多くの発行ができない
など
特別な場合を除き、基本的には手書き以外での対応をおすすめします。
飲食店がインボイス制度に対応するために必要な準備
飲食店がインボイス制度に対応するために必要な準備は、次のとおりです。
・インボイス制度に対応するレジ機や会計システムの導入
・小規模事業者持続化補助金といった補助金制度が利用できないか検討する
・インボイス対応のレシート・領収書の書式を決める
・インボイスや消費税の基本的な事項を理解する
など
インボイス導入の検討時間や新たな経費が必要となりますが、上記の内容についてはコストをかけてでも一度検討しておくことをおすすめします。