日本の学校における食品ロスへの対策はどのようなものがあるでしょうか。
生徒1人当たりの年間の食品廃棄物量は、17.2kgに及び、現状は深刻です。
SDGsの観点からも学校での食品ロス対策は急務となっています。
- 学校給食のしくみ
- 学校給食の実施は義務ではない
- 設置運営は税金、食材は保護者
- 学校での食品ロスの原因は
- 学校給食における食品ロスの現状
- 学校給食で食べ残しが発生する理由3選
- 給食の食べ残しの理由 量が多いから
- 給食の食べ残しの理由 喫食時間が短いから
- 給食の食べ残しの理由 嫌いな食べ物があるから
- 学校給食による食品ロス対策に取り組む意義
- 食品ロスとSDGsの関係性
- アレルギー対応の充実、宗教食などへの理解
- 食べない自由の確保
- 調理の合理化による低コスト化の弊害
学校給食のしくみ
もうすぐ新年度。小学校入学、中学校入学など、新しい学校生活にわくわくどきどき。子どもたちだけでなく、保護者にとっても、学校の教職員にとっても、新しい出会いの時です。学校給食ニュースのホームページも、この時期のアクセスは自然と増えてきます。
学校生活の中で、学校給食は特別な存在です。どんな食事なのか、だれが、どのように献立を立てているのか、食材は大丈夫なのか、なんで牛乳が毎回出るのか、ご飯は? パンは? 給食費の負担は? アレルギー対応は?
学校給食は、自治体や学校ごとに内容やしくみがちがいます。
自分や子どもが通う学校の学校給食のことは、そこでしか分かりません。
学校給食の思い出を聞いても、通った学校や世代によってその内容はまちまちです。
同じようなこともあれば、まったく違うこともあります。
学校給食の実施は義務ではない
公立小中学校、自治体が設置運営し、義務教育を行います。これは義務であり、これによって子どもが教育を受ける権利を保障しています。
学校給食は、学校給食法により、実施を推奨されていますが、義務ではありません。つまり、自治体の判断で学校給食をやることも、やらないこともできます。学校給食を実施する場合には、学校給食法のきまりに沿って、学校給食実施基準や学校給食衛生管理基準に従った学校給食を実施するよう求められています。
設置運営は税金、食材は保護者
学校給食の施設や運営にかかるお金は自治体が出すことになっています。国(文科省)からの補助金や交付金もありますが、これらはすべて公費(税金)です。
保護者が負担するいわゆる「給食費」は、食材費として使われます。これも学校給食法に記載されています。
学校での食品ロスの原因は
食品ロス(フードロス)とは、本来食べられるのに捨てられてしまう食品のことです。
食品ロスは生産者の時間と労力や消費者のお金を無駄にしてしまいます。それだけでなく、環境にも悪影響を及ぼします。
食品ロス削減は、食料資源の有効利用や地球温暖の抑制につながり、持続可能な社会の実現に貢献につながるのです。
学校給食における食品ロスの現状
環境省は、学校給食による食品廃棄物の発生等を把握するため、平成27年度に全国の市区町村に対してアンケートを実施。(回答率約80%)
調査の結果の結果、児童1人当たりの年間の食品廃棄物の発生量は、推計で17.2kgでした。
その内訳は、食べ残しが7.1kg(約41%)と最も多く、次いで調理残渣が5.6kg(約33%)です。
学校給食で食べ残しが発生する理由3選
なぜ学校給食で食品ロスが発生するのでしょうか。
上記から分かるように、学校給食による食品ロスの内訳は主に調理残渣と食べ残しによるものでした。
調理残渣には野菜の皮などがあります。これは給食を作るうえでどうしても発生してしまうものです。
一方、食べ残しによる食品ロスは特に問題です。食べ残しの原因としては主に以下の3つが挙げられます。
|
給食の食べ残しの理由 量が多いから
学校給食による食べ残しの理由の1つ目は「量が多いから」です。
当然のことですが、食べる量には個人差があります。
特に女子は男子に比べ、量が多すぎることを理由に残食する割合が2割高くなっています。
給食の食べ残しの理由 喫食時間が短いから
理由2つ目は「喫食時間が短いから」です。喫食時間が短くなる要因として、
|
などが挙げられます。
給食の食べ残しの理由 嫌いな食べ物があるから
理由3つ目は「嫌いな食べ物があるから」です。
特に野菜、豆類、きのこ類が苦手な子どもが多く、残食量が多い傾向にあります。
学校給食による食品ロス対策に取り組む意義
学校給食で発生する食品ロスは、次のような点から問題視されます。
|
学校給食による食品ロスへの対策は、以上の問題を解決することと同義です。
食品ロスとSDGsの関係性
食品ロスと最も関係が深いSDGsは、目標12「つくる責任つかう責任」です。
特にSDGs12ターゲット3は、
「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンに置ける食料の損失を減少させる」です。
目標12だけでなく、食品ロス削減は他のSDGs目標とも関連します。
例えば、食品ロスの問題が食料不足と関係する点から目標2「飢餓をゼロに」とつながり、
食品ロスの問題が環境問題と関係する点から目標13「気候変動に具体的な対策を」ともつながります。
アレルギー対応の充実、宗教食などへの理解
食物アレルギーへの対応は、献立にすべての食材リストを付けて食べられるかどうか判断することから、除去食、代替食、弁当持参など、様々な形があります。かつては無理解のため、まったく対応しなかったり、不適切な対応の結果、学級内のいじめの原因を招いたりすることがありました。
また、自治体での体制がとられず、栄養教職員や調理員の個別の努力で対応している例もあり、万一の事故の際の責任など課題もありました。その後、食育推進基本計画の第一期で学校給食におけるアレルギー対応が記載されたことから実態調査やガイドラインが整備されました。2012年に誤食による死亡事故が起きたことを受け、文部科学省がガイドラインを見直し、指針としてまとめ、
それに沿った形で組織的な対応を行うようになっています。そのための施設設備や個人の状況の把握、保護者等との情報交換や非常時の体制整備もとられるようになりました。
まだまだ個別には課題の多い問題ですが、アレルギー対応は徐々に充実しています。
宗教食についても、宗教的、思想信条的に食べられないことについて理解されるようになりました。
食べない自由の確保
最近でも、無理矢理に食べさせる指導を教員が行い、それが児童のトラウマや教員の暴力につながるといった報道があります。しかし、一般的には、学校給食は教育を目的に半強制的に食べさせるものである一方で、食は限りなく個人的な属性であることから、本質的には「食べない自由」を持っているものだという理解も深まっています。
ただ、最近、環境面で「もったいない」を減らそうと残食を減らす取組みが広がっており、これが「食べない自由」よりも強制的に食べさせる、食べなければならない状況に追い込むということにならないか、後退への懸念もあります。
政府が推進する「早寝・早起き・朝ごはん」運動も、理念としては分かりますが、それを教育現場に導入したときに強制力をもつと、子どもの権利をひどく侵害し、いじめなどにつながることになる可能性があります。身体性に関する教育はむつかしいものです。
引き続き、教育と個の多様性のバランスへの希求が必要です。
調理の合理化による低コスト化の弊害
直営調理員の合理化は、調理員の退職不補充という形で行われます。その分は非常勤職員で補われ、その後、調理の民間委託という形になる場合が多くなります。
退職不補充の方針は、正規職員が年々高齢化し、正規の職員数も減ることから、ベテランはいるけれど、調理技術の継承ができなかったり、大量調理として体力が必要なのに、若手が不足するという状況を生んでいます。本来なら、定期的に新規採用して、若い調理員の体力を借りつつ、技術を継承していく必要があります。
民間委託化は、自治体が所有する学校の調理場や給食センターを民間事業者に貸して、そこで調理部門を任せる方法です。人材派遣ではなく、請負契約(業務委託)の形をとります。しかし、献立と食材調達は自治体側が行うことになります。主に「コスト削減」のために行われます。
公共事業なので、入札(お金だけの一般入札、企画や事業者の特徴を考慮する総合入札・プロポーザル入札)が行われますが、どうしても価格面の比重が大きくなり、低価格化します。調理委託は、人材を学校給食調理場に入れて調理することから、人件費の積み上げ中心になります。
そこから民間事業者として利益を得なければいけないため、低価格は安い人件費につながります。社員として現場責任者となるチーフ、サブチーフと呼ばれる人たちは、栄養士、調理師の資格も求められますが、他は、一般のアルバイト程度の賃金となります。業務内容はきつく、雇用は不安定のために、人材が安定しないという問題も抱えています。
直営の退職不補充、非常勤化、調理の民間委託化は、いずれもコスト削減のために行われています。献立・食材は変わらないから、学校給食の質は変わらない、安くなった分だけ他の学校給食の充実に使うと自治体側は説明していますが、果たしてそうでしょうか?
無駄なコストをかける必要はありませんが、調理は学校給食の根幹です。味も、安全性も、信頼も、すべてそこから生まれます。民間事業者も、非常勤であれ働く人たちも、みなまじめで、一生懸命働いています。しかし、安い賃金で、安定して働けない状態は、決して健全ではありません。
かつて、全調理場が委託された自治体で、さらなるコスト削減のために、栄養教職員に対して、献立上の制約(むつかしい献立や献立の種類、行事等の制約)をマニュアル化した自治体がありました。このように学校給食の質にまで影響をもたらすこともあります。
とはいえ、現状としては、自校方式、センター方式を合わせて、すでに約半数近い学校が民間委託調理の学校給食を食べています。事業者も統廃合の中でノウハウの蓄積はされています。その結果、ある自治体では栄養教職員の学校給食管理を調理事業者に委託する例も出てきました。
民間委託された調理場で栄養教職員は、現場に入ることや給食をつくる経験を持たなくなります。一方で、委託事業者の栄養士は給食をつくり、献立と調理のバランスを身につけていきます。ノウハウを蓄積していると言えます。
この先に何があるのでしょうか。
一部の自治体が学校長を民間から公募するなどの例はありますが、学校給食の民間委託化が「公教育の民営化」の一歩にならないか懸念を持ちます。