飲食店にとって「クレンリネス(Cleanliness)」は繁盛するための重要なファクターです。クレンリネスとは「磨かれたようにきれいで清潔な状態」を意味し、これにはホールやキッチン、トイレなどの場所だけではなく、働くスタッフの身だしなみや振る舞いまですべて含まれます。
スタッフの服装や髪型がお客さまに不快感を与えていないか、お店のイメージダウンになるような行動をしていないか、絶えずチェックする習慣をつけることが大切です。
身だしなみの基本は清潔感
飲食店スタッフはお客さまの口に入る飲食物を取り扱う仕事ですから、衛生的で清潔な身だしなみが大原則です。どんなに高級食材を使ったおいしそうな料理でも、それを運ぶスタッフのユニフォームが汚れていたり爪が伸びていたりしたのでは、お客さまは不快感を覚えていっぺんに食欲が失せてしまいます。
食べ物や飲み物を扱う仕事はどうしても汚れがちです。本人が気づかないうちに汚れていることもありますから、スタッフ同士でチェックし合うことが大切です。
また、ホールを動き回るスタッフは、お客さまからいつどこを見られているかわかりません。身なりだけでなく、にこやかな表情、キビキビした動作、礼儀正しいことばづかい、背筋を伸ばしたきれいな姿勢をつねに心がけるようにしましょう。
間違っても爪を噛んだり、ツバを飛ばしながら話したり、頭をボリボリかいたりしないよう、緊張感をもって仕事に取り組まなければなりません。
身だしなみのここに注意~髪型・ひげ~
飲食店においてお客さまからのクレームで多いのが異物混入です。なかでも髪の毛は食中毒の原因となる細菌が付着していることがあるので厳重注意です。
仕事中に毛髪が抜け落ちたりしないよう、フロアに出る前によくブラッシングしましょう。長い髪は前かがみになったときに料理にかからないよう、後ろで1つに結んでおきます。両サイドに髪を垂らすヘアスタイルもNGです。
調理をするキッチンスタッフはより清潔感が求められます。キャップを着用する場合は、キャップから髪の毛がだらしなくはみ出したりしないよう、きちんとキャップをかぶるようにしましょう。お風呂に入らないため髪が脂でべとついている人もいますが、これも飲食店スタッフとしては失格です。お風呂に入らないとフケも出やすくなりますから、毎日シャンプーをして清潔を心がけましょう。
無精ひげも論外です。有名シェフの中にはひげをたくわえている方も見受けられますが、アルバイトで無精ひげが許されるところはまずありません。
第一の理由は、無精ひげが生えていると見た目の清潔感が失われることです。第二に、口の周りに生えているひげには雑菌が溜まりやすく、身だしなみだけでなく衛生的な観点から考えてもマイナス要素にしかなりません。
無精ひげはきれいに剃ってからフロアに出るようにしましょう。
身だしなみのここに注意〜爪〜
飲食店スタッフとして働く際は、爪にも気を遣いましょう。爪はひげや頭髪以上に細菌が溜まりやすい場所です。調理を担当する場合はもちろんですが、直接食品に触れないスタッフも気を抜いてはいけません。身だしなみとして不衛生な印象を与えますし、食器やテーブルに細菌が付着すれば間接的に食中毒の原因になります。
爪の長さの目安としては、手のひら側から見た時に指先からはみ出るようでしたら切ってください。開店時間の身だしなみチェック項目に加えておき、毎日確認すると良いでしょう。
ネイルやマニキュアも飲食店に勤務する際は控えましょう。付け爪がはがれて料理に混入してしまう可能性がありますし、濃い色のマニキュアで給仕するとせっかくの料理の色が引き立ちません。
透明な色のマニキュアであっても、それが料理に混入すれば大問題になります。飲食店スタッフになった以上、不必要なおしゃれは控えてください。どうしても身だしなみとして爪にツヤを出したい時は、専用の爪磨きを使えば何も塗らずに綺麗な爪を作ることができます。
身だしなみのここに注意~アクセサリー~
メニューが飲み物と軽食に限られているカフェの場合は、シンプルな結婚指輪は許可している店もあります。しかし、本格的な料理を提供する店ではアクセサリーはいっさい禁止です。その理由は次の通りです。
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◆指輪·時計
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指と指輪の間に細菌が入り込みやすく、石けんで洗う程度では除去しきれません。とくに石づきのデザインリングは細部まで洗浄できず、菌の温床になりやすいので仕事中は必ずはずします。 細菌の付着だけでなく、グラスやお皿を傷つける恐れもあるため、結婚指輪も含めて原則禁止です。 腕時計やブレスレットも同様の理由で仕事中ははずしておきます。
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◆イヤリング·ピアス
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イヤリングは落ちやすいことと、電話応対をするときなどに邪魔になるため、仕事中ははずします。 ピアスはイヤリングに比べて落ちにくいのが特長なのですが、スープの中に落ちているのをお客さまが気づいて大騒ぎになったという実例があります。 また、ピアスを通す耳たぶの穴には雑菌がたまることがあるため禁止している店が少なくありません。
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◆ネックレス
ロングネックレスは料理を運ぶときの邪魔になりますから当然NGです。短いものでも肌と密着する部分に雑菌がたまりやすいので原則禁止です。
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◆香水
料理は五感で味わうものですから、強い香水の匂いは味を損ねてしまいます。なかには匂いに敏感で気分を悪くする方もいますから厳禁です。 柔軟剤の香りが苦手という方もいますので、あまり強い香りのする洗剤は避けるようにしましょう。
身だしなみのここに注意~エプロンや制服・靴~
飲食店の中でも、カフェなどはエプロン以外は私服が多いものです。その場合は華美にならず、白いシャツに黒いパンツまたはスカートというようにシックにまとめると好感をもたれます。
エプロンを選ぶとき
エプロンはとくに洗濯する回数が多いので、まずは色落ちしにくいものを選ぶようにします。素材としてはポリエステルと綿がよく用いられますが、ポリエステルのほうが色落ちしにくいうえ、シワになりにくいのでエプロンには最適です。
綿とポリエステルの混紡素材がありますが、ポリエステルの割合が多いほどそのメリットも高まります。 食器を洗ったりすることが多い場合は「撥水(はっすい)加工」がなされているものにします。それともう1つ、エプロンは漂白剤を使っても色が抜けない「耐塩素加工」が施されているものを選びましょう。
制服(ユニフォーム)の選び方
制服を用意する場合は、清潔感や機能性を重視しますが、内装やインテリアと調和のとれた色・デザインのものを選ぶことが大切です。
制服が目立ち過ぎては落ち着きませんし、お店の品格も落ちてしまいます。それを避けるためには、壁のクロスと同系色にするのが基本でしょう。 たとえば、壁がブラウン系であれば制服は明るいトーンのベージュにするなど、空間にしっくり溶け込む色をコーディネートしましょう。
逆にスタッフが生き生きと働いていることをアピールしたいという場合は、壁と対照的な色にすると効果的です。壁がブラウン系なら制服は淡いブルーかグリーンがよく映えます。赤やオレンジは活発そうな印象を与えますが、色数が多くなると落ち着きのない雰囲気になってしまいます。
制服(ユニフォーム)の管理
制服の清潔さを保つためにはこまめな洗濯が欠かせません。スタッフ一人につき2着支給し、1回着たら洗濯していつもきれいな状態で仕事に就くことを徹底します。
学生アルバイトが多く、制服を自己管理するのは負担が大きいという場合は、レンタルを利用する方法もあります。
レンタルユニホフォームのほとんどはクリーニング費用が込みになっています。 レンタルであれば、制服のストック場所に困らない、コストの管理がしやすいなどのメリットもありますから一度検討してみると良いでしょう。
靴を選ぶ時の注意点
ほとんどの飲食店では、靴は自分で用意することになります。
基本的には店の指示に沿って選べば問題ありませんが、店用の靴を外で使うのはやめましょう。外から履いてきたままの靴でキッチンやホールに立つことは、飲食店のスタッフとして最もやってはいけないことです。雑菌を店の外から持ち込むことになり、それが食中毒の原因になりかねません。
飲食店スタッフとして働く際は、店内専用の靴を普段使いの靴とは別に用意してください。見た目を綺麗に保つのはもちろんですが、アルコール消毒も徹底して常に清潔な状態を維持するように心がけましょう。
また、店内では正しく靴を履いてください。かかとを踏んだり不適切な状態で着用しているとだらしなく見えますし、転倒してお客さまに迷惑をかける危険があります。
飲食店スタッフは自分のおしゃれよりも、お客さまの安全と快適さを追求した身だしなみが最優先です。それを忘れないようにしましょう。
最後に
飲食店で働くときに注意することは多くあります。その中でも、お店の印象だけでなく感染症や異物混入を防ぐために、清潔感は最も重要といえるポイントです。清潔感のある店は、食事する上でお客様に安心感を与え、店に対する満足度をアップさせます。
清潔感のある身だしなみで仕事にのぞむということは、飲食店で働く上で最低限のマナーだと言えます。安全で安心できる食品を提供するためにも、髪の毛やツメ、ヒゲやピアスといった隅々までの衛生管理は必要なことです。
オシャレと身だしなみは必ずしもイコールではありません。働くときに好ましい服が、自分の好みとは違う場合だってありえます。ですが仕事とオフは、分けて考えるべきとも言えます。オシャレは自分を演出したり、好きな服を着て身を飾ったりして楽しむものです。
対して仕事における身だしなみは、相手に不愉快な気持ちをさせないための心遣いです。飲食物を提供するために必要なことはなんなのか、自分の身だしなみがお客さまの印象を左右することを念頭に置いて働くことが大事です。
飲食店コンサルタント