今回のお題“八寸”には、一体どんな真実が隠されているのでしょうか?私達が一度は食べたことのある、あんな料理やこんな料理には、隠された物語があることをご存知でしょうか?“知る”ことで、同じ料理が明日からちょっと美味しくなるといいな!
奥深い日本料理
昨今の日本料理店で「八寸」と言われて出てくるものは、きれいな前菜の盛り合わせというイメージが強い。器の上に一口サイズの華やかな料理が色とりどりに何種類も盛ってある。その料理に促されるように早速お酒を飲みたくなるがそれでいいのです。
八寸とはもともと茶事で出される料理つまり懐石の中で供され、茶事を開いてもてなす亭主ともてなされる客が杯を酌み交わすときの酒のアテをさすものです。
ただ、八寸を8種類の料理が盛りつけられたものだと思っているなら間違いです。
「ちょっと」を漢字で書くと「一寸」だから8種類の料理を一寸(ちょっと)ずつと思いたくなるし、日本人は末広がりの八の字がめでたいということで好きだし、八にこだわるのは何の不思議もない。しかし八寸とは料理を盛りつける器のサイズからきている。8寸つまり1寸(3.03cm)の8倍である約24cm四方の器に盛りつけられたことでそう呼ばれる。基本的には8寸四方の杉木地の盆を使う。もともとは神事で使うお供えをのせるもの、これを茶人である千利休が茶事の懐石に取り入れたと言われています。
この四角い盆に酒の肴になるような旬の海の幸と山の幸を、1種類ずつ対角線を意識して盛る。珍しいものが手に入るともう1種類加えて3種類になることもある。取り分けるスタイルをとるので、濡らしてから露をきった青竹の長い箸を添える。敷き葉などは使わず、料理のみを盛って静かに四季を描くのが懐石における八寸。
飯、汁、向付(刺身)から始まる茶事の懐石の流れの中で八寸は後半に出されるもの。
この八寸で初めて客と亭主が酒を交わす。
懐石コースのハイライトみたいなものだから八寸の取り分け方にしても、杯の交わし方にしても茶事らしく作法がある。
この作法が一般人にはなかなかハードルが高い。
亭主は決して強いたりしないのだがこちらは勝手に緊張してしまう。
この緊張をゆるめてくれるスタイルが、カイセキはカイセキでも宴会の要素が強い会席の八寸だ。茶事の流れを汲んでいる店もあるが、多くの店は結構自由にこの会席スタイルで八寸を出している。宴席だから賑やかがいいということで、器も盛りつけもいろいろ。品数も多い。献立の最初に出てくることもあり、フランス料理のアミューズブーシュみたいで個人的には楽しい。
そういえばアミューズブーシュは一口の楽しみという意味である。その一口のサイズを日本人は1寸とし、日本料理人は1寸サイズに切り整えることを修業の第一歩とする。そう「寸」の言葉には日本の技を味わうという意味も含まれているように思う。八寸は8寸。ニジュウヨンセンチという呼び名では味気ない。笑
懐石料理での位置づけ
季節を感じる前菜料理
よく用いられる食材
春の八寸には、コゴミや竹の子、菜の花など春野菜がよく用いられます。大人な苦味がお酒によく合いますよね。白魚や鯛、ハマグリなども春に旬を迎え八寸でよく使用されています。春にしか食べられない食材が盛り沢山です。
残念ながら、この捉え方では、何度日本料理を食べに行っても、『ああ、美味しかったなあ』という一言で終わりです。献立の中の一品一品が担っている役割を理解できず、美食家(グルメ)にはなれても食通にはなれません。
なぜなら、日本料理に対する歴史的視点でのアプローチがないからです。歴史的視点でのアプローチとは簡単に言えば、日本料理の型を知ることであり、それを知ればおのずと先に書いたような日本料理の定義も見えてきます。そしてこれこそが、日本料理を最大限美味しく食べるための作法と言うべきものなのです。
日本料理の基本的な献立
献立の中で出てくる順番としては、先付(日本料理の前菜)の役割も担い、最初にくる場合もありますし、御椀の次にくる場合もあります。煮る、焼く、揚げるなどの調理法にかかわらず、季節を代表する食材が一皿に盛ってあるものを言います。基本的には、海のもの、山のもの(精進もの)を盛り合わせて構成し、その時の日本の季節を端的に表現する一品です。
「八寸」の名前の由来とは
ではなぜ、季節感を表現した料理が今現在、八寸という名称で呼ばれるようになったのでしょうか。その起源は奈良時代にあります。八寸の歴史をさかのぼってみましょう。鍵は、「八寸」という言葉自体の意味にあります。八寸の「寸」は「寸法」に起因するもので、これは中国に起源を持つ尺貫法の長さの単位です。単に直訳すれば、「八寸」は1寸×8という長さを表します。1寸は3.03センチですので、8寸は24.24センチ、約24センチです。中国語で長さを表す言葉が、日本ではひとつの料理名となったのです。たいへん面白いことです。
さて、この「八寸」という料理名には日本の箸文化が深く関わっています。日本の箸文化を形成したのは、皆さんご存じの聖徳太子でした。彼が中国に小野妹子ら遣隋使を派遣し、帰国した際に多くの中国文化が伝わりました。その中に中国の食事の作法として、箸で食べる文化があったのです。当時の中国では食卓にナイフはなく、厨房であらかじめ、箸で食べやすい一口大に切られたうえで提供されました。その結果、箸が普及していったと言われています。
「一口大に切る」。ここが八寸という言葉の由来を探るためのキーワードなのです。一口大に食べ物を切ることを考えると、当然目安は口の横の長さであり、それから考えると適切な大きさは、幅3センチくらいであることは皆さんにもご理解いただけることと思います。
あっ! 3センチはおおよそ一寸ではないでしょうか!
八寸という名称に一歩近づきました。近づいたところで、八寸の歴史は一気に戦国時代に飛びます。実は、利休居士、皆さんご存じの茶の湯の大成者・千利休が八寸の生みの親です。
「八寸」という言葉は利休居士が京都洛南の八幡宮の神器からヒントを得て作ったと言われ、そもそもは八寸角の杉の角盆を意味しました。これは一度使うと再度使わない、使い切りの器でした。やがて、それに盛られる酒肴のことを意味するようになり、現在では献立の名称へと変化したのです。