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japan-eat’s blog

食に関する事や飲食店の運営に関する内容を記載してます。

飲食店の料理にはなぜ著作権がないのか 〜法律・文化・実務の三側面からの徹底解説〜

料理の価値は、栄養供給に加えて、心の健康、人間関係の構築、文化、そして芸術性など多岐にわたります。単なる生命維持の手段に留まらず、精神的充足や共生、創造性の源泉となりうる、文化的・社会的な営みであると言えます。

1.料理は「創作物」なのに、なぜ保護されないのか?

私たちは日常的に外食をし、SNSなどで料理の写真を共有することが当たり前の時代に生きています。
飲食店のシェフが心血を注いで作り上げた一皿には、美しさ・独創性・味覚のバランスといった、まさに「創作」と呼ぶにふさわしい要素が詰まっています。
それにもかかわらず、日本の著作権法上では「料理」には著作権が認められていません。

なぜこれほどまでに創造性の高い表現であるにもかかわらず、法的には保護されないのでしょうか?
その理由を、法律の仕組み・文化的背景・実務上の課題という3つの側面から詳しく見ていきましょう。

 

2.著作権法における「著作物」とは

まず前提として、著作権法が保護するのは「著作物」です。
日本の著作権法第2条1項1号では、著作物を次のように定義しています。

「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

つまり、著作権が発生するためには以下の3つの条件が必要です。

  1. 思想または感情が表現されていること
  2. 創作性があること(独自の工夫・個性)
  3. 文芸・学術・美術・音楽のいずれかの範囲に属すること

この中で料理が問題になるのは、主に「どの範囲に属するか」という点です。
料理には確かに創造性がありますが、著作権法上の「美術」や「文学」には含まれないと解釈されています。

 

3.料理が著作物として認められない理由

では、なぜ料理は「思想や感情の創作的表現」として認められないのでしょうか?
大きく分けて3つの理由があります。

 

(1)料理は「実用品」であるため

料理は芸術的な見た目を持つことが多いとはいえ、最終的には「食べる」ことが目的です。
つまり、実用目的を持つものであり、これが「美術」の範囲外と解釈されている最大の理由です。

著作権法では、実用品のうち「美術的要素が独立して鑑賞可能なもの(例:美術工芸品)」に限って保護の対象としています。
たとえば、陶芸作品や彫刻などは、使う目的があっても「美術的鑑賞」が可能なため、著作権の対象になり得ます。

しかし、料理は食べてしまえば形がなくなり、保存・展示による鑑賞ができません。
そのため、法律上は「芸術作品」ではなく「消費される実用品」として扱われているのです。

(2)味覚や香りは「表現」として認識できない

著作権法で保護される「表現」は、人が知覚でき、他人に伝達可能な形で表されたものでなければなりません。
文字・音・映像・デザインなどは視覚・聴覚を通じて共有できますが、味覚や嗅覚は共有が極めて困難です。

たとえば「甘い」「香ばしい」といった感覚は人によって受け取り方が異なり、明確な再現・伝達ができません。
したがって、「味」そのものは著作物の表現とはみなされず、著作権の対象外となります。

(3)再現性の問題:レシピと手順は「アイデア」に過ぎない

仮に料理の形や構成が独創的でも、それを再現するための「レシピ」や「手順」はアイデアの領域に属します。
著作権法では、アイデアや手法、プロセス自体は保護されないという原則(「アイデア・表現二分論」)があります。

たとえば「カレーにチョコレートを入れる」「卵黄だけでカルボナーラを作る」といった発想は創造的でも、それは“表現”ではなく“方法”にあたるため、著作権ではなく特許や営業秘密の分野で扱われるものになります。

 

4.海外ではどうか?料理と著作権の国際的比較

日本と同様、世界各国でも「料理そのもの」に著作権を認める国はほとんどありません。
しかし、一部では例外的に議論や試みが進められています。

アメリカ

アメリカでも「料理自体」は著作物とされません。
ただし、料理本の文章・写真・デザインなどは著作物として保護されます。
また、料理の「盛り付け」や「プレゼンテーション」が芸術的であれば、アート作品として一部保護される可能性も議論されています。

フランス

美食文化が発達したフランスでも、料理の味そのものには著作権が認められません。
ただし、芸術的な盛り付け(plate art)や料理の写真表現については、芸術作品として扱われるケースがあります。
一部の著名シェフは「料理は文化的表現である」として法的保護を求める運動を続けていますが、実際の裁判で認められた例は少数です。

中国・韓国

これらの国でも基本的には日本と同様で、料理自体の著作権は否定的です。
ただし、ブランド保護や営業秘密としてのレシピ管理を重視する傾向があります。

 

5.著作権以外の保護手段:シェフたちはどう守っているのか

料理が著作権で保護されない以上、シェフや飲食店は別の手段で自分の創作を守る必要があります。
主な方法を整理すると以下の通りです。

(1)営業秘密(不正競争防止法)

レシピや仕込み手順を「秘密情報」として管理し、
社外への持ち出しや漏洩を防ぐ方法です。
従業員に守秘義務契約を結ばせることも重要です。

(2)商標登録

料理名やメニュー名(例:「牛角カルビ」「蒙古タンメン中本」など)を商標として登録することで、
他店が同じ名称を使うことを防ぐことができます。

(3)意匠権・特許権

料理そのものは難しくても、特殊な容器や調理機器、盛り付けの器具などには意匠・特許を取得する余地があります。

(4)ブランド戦略・ストーリーテリング

法律で守れない部分は「ブランド価値」で守るという発想です。
「この味はこの店でしか食べられない」「この料理にはこの店の歴史がある」
といったストーリーを構築し、顧客の心に刻むことが、結果的に最大の防御となります。

 

6.SNS時代の課題:模倣・盗用の線引き

InstagramやTikTokなどで料理の写真や動画が広がる現代では、模倣や盗作の問題も増えています。
ただし、法的には「料理の再現」そのものを止めることはできません。

しかし、写真や文章、動画などの“表現物”には著作権があります。
したがって、他人の撮った料理写真を無断転載したり、他店のメニュー説明文をそのままコピーした場合は著作権侵害にあたる可能性があります。

また、「まるごと模倣店」(店名・メニュー構成・内装までそっくりに真似するケース)については、
不正競争防止法によって差し止めが認められる場合もあります。
このように、直接的な料理の味や形は守れなくても、周辺部分では法的保護が可能なのです。

 

7.料理を「芸術」として保護できる未来は来るのか?

AIアートやNFTなど、近年はデジタル作品の著作権保護が拡大しています。
その流れの中で、「料理」も新たな創作表現として再評価される可能性があります。

たとえば、

  • 盛り付けを3Dスキャンしてデジタルアート化
  • レシピをAIで生成・管理し、NFTとして所有権を付与
    といった動きがすでに海外では始まっています。

これらは、料理そのものではなく「料理を介した表現のデジタル化」によって、間接的に著作権的保護を実現しようとする試みです。
今後、法整備が進めば「料理の芸術性」もより明確に保護される日が来るかもしれません。

 

まとめ:著作権がなくても「料理の価値」は消えない

料理は、法律上は「著作物」ではない。
しかし、文化的・創作的価値が低いわけではありません。
むしろ、食という五感を通じた体験こそが、他の芸術にはない「人間的表現」の究極形とも言えます。

著作権がなくても、料理人が守るべきものはあります。
それは「味」だけではなく、「思想」「哲学」「感動の設計」です。
これらは法律よりも強く、人の記憶に残る。
つまり――「心に刻まれる味」こそが、最高の著作権なのです。

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