漬物とはその名の通り、漬ける物です。
今回は伝統的なお漬物の話です。。
古来から人間は春夏に野菜等を収穫していたのですが、冬なると野菜が採れないので、春夏に収穫した野菜を保存しておく必要がありました。しかしながらただ放っておくと虫が来たり、腐ってしまったり、有害な腐敗菌によって食べられなくなってしまいます。そして大昔には冷蔵庫などという便利なものはありません。
古来の人間は野菜を保存するために塩を使いました。
野菜の塩漬けです。
こうすることで冬にまで野菜を保存することに成功したのです。
そして保存した野菜にはうま味が増していることにも気が付きました。乳酸菌が野菜の糖分を分解してうま味を産出したのです。こうして野菜の塩漬けはその保存能力もさることながら『長期間寝かせると美味しくなる!』ということも相まって『漬物』として一気に広まっていったのです。
漬物と発酵
先の話のように漬物と発酵には大きな関係性があります。
野菜の保存期間のうちに乳酸菌が入り込み、野菜の糖分を分解してうま味や独特の香りに変えるので確実に発酵が行われています。
これが『長期間寝かせると美味しくなる!』という事実の裏付けでもあり、 発酵することで漬物として完成するといっても過言ではないわけです。
弊社のホームページでも大きくうたっていることですが、本来の漬物は発酵食品なんです。
『漬ける』という言葉のなかに「保存」と「熟成発酵」という意味が隠されているのです。
ちなみに発酵による独特の香りから「香の物」とも呼ばれたり「古漬け」や「ひね漬け」とも呼ばれたりしびます。
絶滅寸前の発酵漬物
もともと漬物は塩漬けでの発酵過程が基本になっていますので、昔は全ての漬物が発酵漬物だったのです。
そういった背景もあり、全国的にも様々な発酵漬物が生まれてきました。
『沢庵漬け』『野沢菜漬け』『しば漬け』『すぐき漬け』『すんき漬け』『蕪漬け』『高菜漬け』等、多種多様な発酵漬物が存在します。
皆さんも一度は聞いたことのあるお漬物の名前だと思います。
しかしながら現在の沢庵漬けや野沢菜漬け等は【発酵されずに商品として完成】しているのです。漬物を実際に発酵させて作るのは弊社の沢庵漬けのように非常に手間がかかります。これはしば漬けや高菜漬けでも例外ではありません。手間もかかれば時間もかかります。
現在は冷蔵技術の発達や運送のインフラ、化学添加物の進化により、発酵させずに調味液の液漬けでつくる漬物が主流となっているのです。
現在私達のまわりにあるお漬物は保存が目的の漬物とは違い、調味液の味付けされた液漬けの漬物がほとんどなのです。発酵という過程を経てつくられる漬物は手間や労力、コスト面から年々減少しており、今では絶滅寸前の漬物とさえ呼ばれるようになっているのです。
発酵漬物の保存能力
さて、今では本当に希少な存在となっている発酵漬物ですが、もともと保存が目的でつくられているため、その保存能力には目をみはるものがあります。
たとえばpHです。乳酸菌が発酵の過程で生み出す乳酸や酢酸は強い酸度があります。
なんとpH2(低いほど強い)程の酸度にまで達することがあります。
この酸度になればあの酸に強いと呼ばれる『O157』でさえもやっつけてしまうほどです。
このように乳酸菌によってpHを低下させることにより有害な菌や悪玉菌を寄せ付けない環境を作ってしまうのです。
もちろん塩漬けによる塩の浸透圧による保存性もさることながら、さらに乳酸菌による酸性環境がその保存性をさらに高めているのです。
健康食としての漬物
近年この絶滅の危機に瀕している発酵漬物が実は健康食として注目されつつあるのです。
それは『乳酸菌』です。
しかも漬物や味噌、醤油にしか発生しない『植物性乳酸菌』です。
漬物と乳酸菌の中でも説明していますが、チーズやヨーグルト等は『動物性乳酸菌』です。 動物性の乳が母体となって繁殖する乳酸菌だからですね。逆に野菜が母体となって繁殖する乳酸菌は『植物性乳酸菌』と呼ばれます。
そしてこの植物性乳酸菌には健康対して優れた効力を発揮するということが科学的にも明らかになってきているのです。これについては漬物と乳酸菌のページや漬物屋ブログので説明していますが、カンタンに言うと、動物性の乳酸菌はミルクというバランスのいい環境でぬくぬく育った乳酸菌です。
植物性は漬物や味噌など、塩度もあれば酸度も高いという細菌にとっては劣悪な環境のなか力強く生き抜いて発酵するわけですから、菌自体の生命力も高く腸に対して好影響を与えると言われています。もちろん動物性の乳酸菌もカラダにとって良いと言われているのですが、植物性はそれ以上に好影響を与えるという点から、近年発酵のお漬物や味噌は健康食としても、非常に注目される存在になってきているのです。
漬物の存在意義
現在、漬物市場は年々減少の傾向にあります。
やはりメインの料理ではなく、料理の脇役的存在だからです。
そのせいもあってか、添加物によってコストや手間を抑えた液漬けの漬物が主流になってきているので、深みのない味の漬物であったり、不自然なうま味を持つ漬物が多くを占めます。
そういった漬物は瞬間的なウマさはあったとしてもコアなファンを生むには至りません。
やはり化学的に作られた味ですので後味も悪ければ、強すぎるうま味が故に舌を飽きさせるのです。そういった経緯がこの漬物市場の減少を招いた結果でもあると樽の味は考えます。
樽の味は昔ながらの製法にならい、発酵によるうま味と後味の良さ、コアなファンをつかめるような深みのある味を目指して日々精進いたします。