店長が目指すべきは、売上を伸ばすことだけではありません。
お客様に喜ばれ、スタッフが成長し、結果としてお店が繁盛する。
このサイクルを生み出すことこそが、店長の最大の使命です。

- 1.数字ばかり見る店長が増えている現実
- 2.「人を見ない店長」が起こす典型的な現象
- 3.なぜ「人より数字」を見てしまうのか?
- 4.数字を追う前に見るべき「人のサイン」
- 5.「人を見て数字を動かす」店長がしていること
- 6.「数字を追う」経営と「人を育てる」経営の違い
- 7.数字は「温度」を持つ
- 8.「人を見る」店長が生み出す売上構造
- 9.「人を見ない」店長の末路
- 10.「人を見る店長」が持つ5つの資質
- 11.結論:人を見れば、数字はついてくる
- 最後に:店長へのメッセージ
1.数字ばかり見る店長が増えている現実

近年、飲食業界をはじめ多くのサービス業で、店長の役割が「経営者の分身」として求められるようになりました。
「売上」「原価率」「人件費率」「FL比率」「客単価」「回転率」——。
これらの数値を日々チェックし、報告し、改善する。まさに“数字の管理者”です。
もちろん数字の把握は経営の基本です。
しかし問題は、数字を見ることが「目的化」してしまっている店長が増えているということです。
つまり、
- 「売上を上げること」が目標になり、
- 「人を育てること」「チームを整えること」が二の次になる。
その結果、店の数字は一時的に上がっても、長期的な持続力が失われていくのです。
2.「人を見ない店長」が起こす典型的な現象

① 現場の空気が重くなる
数字ばかり見ている店長の口癖は、「今月の売上、全然足りてない」「昨日より下がってるぞ」「もっとやれ!」。
こうした言葉が現場に増えると、スタッフは“数字に追われる”感覚になります。
結果として、スタッフの表情は曇り、声が小さくなり、活気が消えていきます。
お客様はその空気を敏感に感じ取り、再来店を避けるようになります。
売上を上げるために発した言葉が、逆に売上を下げる要因になってしまうのです。
② 指示待ちスタッフが増える
数字重視型の店長は「何を」「どれだけ」「いつまでに」やるかを明確に伝える反面、
「なぜそれをやるのか」という意図を共有しないことが多いです。
結果として、スタッフは「指示がないと動けない人」になり、
自ら考えて行動する主体性を失います。
短期的には店長の管理下で動くため効率的に見えますが、
長期的には組織全体の成長が止まり、**“人が育たない職場”**になります。
③ 離職率が上がる
数字ばかりを追う環境では、スタッフが「自分が大切にされていない」と感じます。
「売上が悪いと怒られる」「褒められるのは数字が上がった時だけ」。
こうした職場では、人は“モノ”のように扱われている感覚を覚え、やがて辞めていきます。
数字は残るが、人は去る。
結果、店長はまた新人を育て、また辞められ……という悪循環に陥ります。
3.なぜ「人より数字」を見てしまうのか?

数字偏重型の店長には、いくつかの心理的背景があります。
(1)プレッシャーの転移
上から「売上!」「前年比!」「FL比率!」と毎日数字を求められると、
店長自身が精神的に追い詰められます。
そして、そのプレッシャーをそのまま下に流してしまうのです。
これは、無意識に“自分がされて嫌だった管理”を、他人にしてしまう構図です。
(2)「数字=成果」と思い込んでいる
多くの店長が「成果=数字」と誤解しています。
確かに数字は成果の“結果”ではありますが、“原因”ではありません。
数字は「人が動いた結果」生まれるものであり、
人が動くためには「関係性」「信頼」「やる気」が必要です。
数字ばかりを見るということは、原因を無視して結果だけ見ていることになります。
(3)評価制度の歪み
企業によっては、店長の評価が「売上達成率」「人件費比率」だけで決まることがあります。
この仕組みでは、どんなにチームを育てても、売上が悪ければ“無能”扱いです。
そのため店長は、人より数字を優先するように“制度的に追い込まれている”ことも多いのです。
4.数字を追う前に見るべき「人のサイン」

本来、店長が最初に見るべきは「人の数字」です。
つまり、スタッフの表情・言葉・行動・雰囲気という“見えない数字”です。
たとえば、
- スタッフが笑顔でお客様に声をかけているか
- 休憩から戻る足取りが軽いか
- 店長に対して目を合わせて話しているか
- ちょっとした雑談があるか
こうした“小さなサイン”が、売上の予兆になります。
スタッフの機嫌がいい店は、必ず売上が上がります。
逆に、数字の報告ばかりしている店は、どこか「冷たく、無表情」になります。
人の温度が数字の温度を決めるのです。
5.「人を見て数字を動かす」店長がしていること

(1)数字の前に「ありがとう」を伝える
売上報告の前に「今日もありがとう」「助かったよ」を伝える店長は、現場を強くします。
人は「感謝」で動き、「数字」で止まる。
数字を伝えるより先に、感情を整えることがマネジメントの基本です。
(2)ミスを責めず、仕組みを見直す
数字を見て叱る店長は「誰のせいか」を探します。
人を見て考える店長は「何が原因か」を探します。
「ミス=人の失敗」ではなく、「ミス=仕組みの不備」と考えることで、
スタッフは安心して提案や改善を出せるようになります。
(3)数字を“結果”ではなく“対話の材料”にする
売上をスタッフと共有する際も、「今月の売上が悪い」ではなく、
「どうしたらお客様が喜ぶか」「何が足りなかったか」を一緒に考える時間にする。
数字は叱るためではなく、考えるための道具です。
数字を通じて会話を生む店長は、チームを動かします。
6.「数字を追う」経営と「人を育てる」経営の違い

| 視点 | 数字を追う店長 | 人を育てる店長 |
|---|---|---|
| 会話の中心 | 売上・原価・人件費 | お客様・チーム・成長 |
| 評価基準 | 達成率・ミスの少なさ | 姿勢・努力・貢献度 |
| 指導方法 | 命令・叱責 | 対話・共感 |
| スタッフの反応 | 萎縮・離職 | 成長・定着 |
| 結果 | 一時的な成果 | 長期的な安定 |
数字を追う店長のもとでは「効率」は上がっても「熱量」は下がります。
人を育てる店長のもとでは、一時的に非効率でも、最終的に“強い現場”になります。
