「ガム(Gum)」とは、一般的に「噛んでも飲み込まない」嗜好品の一種であり、口の中で長時間噛み続けることを目的とした食品です。ガムは、甘味料・香料・柔軟剤などを混ぜ合わせ、弾力性のあるベース(ガムベース)によって作られます。現代では清涼感を楽しむもの、口臭を抑えるもの、集中力を高めるものなど、様々な目的で利用されています。

ガムの起源と歴史

古代のガム文化
ガムの歴史は驚くほど古く、紀元前から人類は自然の樹脂を噛んでいたといわれます。
たとえば古代ギリシャ人は「マスティック樹脂(マスチック)」と呼ばれる樹液を噛み、口臭予防や口腔清潔のために用いていました。また、北米先住民は「スプルース(松)」の樹脂を噛む習慣があり、それが後にヨーロッパ系移民に伝わっていきます。
近代ガムの誕生
19世紀になると、アメリカで商業的なガム製造が始まりました。最初期のガムの一つは、1848年にジョン・カーティスが販売した「スプルースガム」です。その後、メキシコ原産の「チクル(チクル樹液)」が注目され、これをベースにした弾力性の高いガムが登場しました。
チクルガムは、アントニオ・ロペス・デ・サンタ・アナ将軍(元メキシコ大統領)と、アメリカの発明家トーマス・アダムスの出会いによって広まりました。アダムスはチクルからゴム製品を作ろうと試みましたが失敗し、代わりに「チクルを噛む」製品としてガムを売り出したのです。これがのちに「アダムス・ニュー・ヨーク・チューインガム」となり、現代のガム産業の礎となりました。
ガムの主成分と製造工程

1. ガムベース(基礎部分)
ガムの「噛み応え」を作るのがガムベースです。
昔は天然樹脂(チクルなど)が主でしたが、現在では石油由来の合成樹脂(ポリイソブチレン、酢酸ビニル樹脂など)が多く使われています。これにより品質が安定し、コストも下げられました。
2. 甘味料
砂糖、ブドウ糖、水飴などが伝統的に使用されてきましたが、近年では「シュガーレスガム」としてキシリトール、ソルビトール、マルチトール、アスパルテームなどの人工甘味料が多く使われます。キシリトールガムは特に歯に優しいことで知られています。
3. 香料
ミント系(ペパーミント・スペアミント)が主流ですが、フルーツ系(ストロベリー・グレープ・メロンなど)、コーヒーや紅茶風味など多様です。香料は揮発性が高いため、ガムの中にマイクロカプセルとして封入されることもあります。
4. 柔軟剤・可塑剤
グリセリンや植物油などが添加され、ガムの弾力と柔らかさを保ちます。
製造工程
- ガムベースを加熱して溶かす
- 甘味料や香料を加えて混合
- 混合物を冷却して延ばす
- 板状・粒状・ボール状に成形
- 包装・検査を経て出荷
このようにして、私たちが日常的に手に取るガムが作られています。
ガムの種類と用途

1. フレーバーガム
単純に味と香りを楽しむタイプで、子ども向けや懐かしい駄菓子としても人気です。
2. ミントガム
清涼感が強く、口臭対策やリフレッシュ目的で最も広く流通しています。
代表的ブランドには「クロレッツ」「フリスクガム」「リカルデント」などがあります。
3. キシリトールガム
虫歯予防効果をうたう機能性ガムで、歯科医推奨商品も多いです。キシリトールはミュータンス菌の酸生成を抑制し、再石灰化を促す働きがあります。
4. スポーツ・集中系ガム
カフェインやビタミンを配合し、集中力や覚醒効果を狙うタイプです。
受験生やドライバーなどに人気があります。
ガムと日本文化

日本にガムが本格的に入ってきたのは第二次世界大戦後、アメリカ兵が持ち込んだのが始まりとされています。当時の日本人にとってガムは非常に珍しく、「アメリカの象徴的なお菓子」として若者文化に浸透しました。
昭和30年代(1950年代後半)には「ロッテ」「明治」「グリコ」などが次々と国産ガムを製造。ロッテの「グリーンガム」「クールミントガム」などは長く愛される定番商品となりました。さらに1980年代以降は、「キシリトールガム」「ACUO」「Fit’s」など、健康志向やファッション性を重視したガムへと進化しています。
科学的・医学的観点から見るガム

1. 噛む行為と脳の活性化
近年の研究では、「噛む」という動作が脳への血流を促進し、集中力・記憶力の向上に寄与することが示されています。特に勉強中や仕事中にガムを噛むことで、認知パフォーマンスが向上するという報告があります。
2. 口臭予防と唾液分泌
ガムを噛むことで唾液が分泌され、口内の自浄作用が高まります。唾液は口臭の原因物質を希釈し、歯の再石灰化にも役立ちます。
3. 虫歯予防効果
キシリトールやカルシウム配合ガムは、歯の健康維持に効果的です。歯科医院でも「食後にキシリトールガムを噛む」習慣を推奨するケースが増えています。
4. 過剰摂取の注意点
一方で、人工甘味料(ソルビトールなど)を多く摂取すると下痢を起こす可能性があります。また、長時間の咀嚼により顎関節への負担が増える場合もあるため、節度を守ることが大切です。
ガムと社会的マナー

日本ではガムを噛むことに対して、状況に応じたマナーが求められます。たとえば、電車内や会議中、対面の会話時などに「クチャクチャ」と音を立てるのは好ましくありません。欧米では比較的寛容ですが、日本社会では「礼儀を欠く」と見なされる場合が多いため、TPOに応じた使い分けが必要です。
ガムの環境問題

ガムの問題点として「ポイ捨て」があります。ガムベースは自然分解しにくく、路上に捨てられたガムは黒い染みとして長期間残ります。これに対して、近年では生分解性ガムの研究が進められており、天然素材ベースのエコガムも登場しています。
未来のガム

近年の食品テクノロジーでは、機能性を高めた「スマートガム」が注目されています。
・カフェインやCBDを含むガム
・睡眠サポート成分配合ガム
・栄養補助ガム
など、単なる嗜好品から「健康をサポートするガム」へと進化しつつあります。
また、AR/VRと組み合わせた香り付き体験ガム、AIが好みに合わせてフレーバーを提案するガム自販機など、新たな展開も予想されています。
まとめ

ガムは、古代から続く人間の「噛む」文化を受け継ぐ食品です。
単なるお菓子ではなく、リフレッシュ・集中・健康維持など多様な役割を持ち、現代社会においても身近な存在です。これからも、技術の進歩と共に「噛む楽しみ」は進化し続けるでしょう。
