日本におけるカレー屋の流行の構造(何が火をつけ、何を持続させるのか)と、逆に閉店・縮小に追い込む構造的要因を丁寧に分解します。実務的な示唆(開業・改善の観点)も最後にまとめます。まず全体像から。

- 1|全体像:カレーは“国民食”でありつつも「多様化」している
- 2|カレー屋が流行る(繁盛する)主要因 — 10の要素に分解して解説
- 3|一方で閉店(撤退)が相次ぐ理由 — 主要因を分解する
- 4|閉店リスクを高める“典型パターン”(経営的観点)
- 5|成功に寄与する“対処策”と事業設計(実務的アドバイス)
- 6|将来展望(トレンド予測と注意点)
- 7|まとめ(経営者・実務者へのメッセージ)
1|全体像:カレーは“国民食”でありつつも「多様化」している

日本のカレーは単なる家庭料理を超え、外食での専門店化・多様化が進みました。従来の欧風カレー・家庭的なルウ系に加え、ここ十年ほどで「スパイスカレー」「無水カレー」「冷やしカレー」など複数のムーブメントが同時並行的に発生しています。地方ごとのローカル化(大阪のスパイスカレーシーンなど)や、短期出店(間借り)からの本格出店といった動きも活発です。
2|カレー屋が流行る(繁盛する)主要因 — 10の要素に分解して解説

2-1 料理としての“自由度”と表現力(イノベーションの土壌)
カレーは基本の「スパイス配合」「だし・ベース」「煮込み時間」「調理手法(炒める・焼く・無水)」などで味の幅を極端に広げられます。和食的な出汁や発酵調味料を合わせたり、洋食的なフォンとスパイスを融合させたりできるため、シェフの個性が出やすい。結果として「オリジナル性」が競争力になりやすく、食べ手は“新しい一皿”を求めて店舗を回遊します。
2-2 地域シーン(大阪など)とローカル発の“聖地化”
特定地域で特有のカレー文化が成熟すると、外からの注目と来訪需要を生みます。大阪のスパイスカレーはその代表例で、料理文化とまちの親和性が相乗効果を生み、シーン全体を盛り上げました。こうした“聖地化”は観光需要と地元の常連層を同時に引き寄せます。
2-3 低資本・低リスクで試せる「間借り」スタイルの普及
夜のバーや異業態の営業時間外に場所を借りる「間借りカレー」は、初期投資が小さく“試験営業”や副業スタートに最適です。成功すれば実店舗化、失敗しても損失が限定的という点で若い料理人や副業層に受け入れられ、結果として“新顔”が続々出てくる土壌になっています。
2-4 SNS/短尺動画と“可視化”マーケティングの強さ
インスタグラムやTikTokの登場により、見た目や調理プロセスの面白さが瞬時に拡散されます。多くの飲食店がSNSを集客の主要チャネルとして利用しており、話題化→来店という流れが効きやすくなっています。カレーはトッピングや盛り付けの変化、湯気やとろみなど“映え要素”が多く、SNSで火がつきやすいメニューです。
2-5 多様なビジネスモデル(テイクアウト/デリバリー/物販)への親和性
カレーは持ち帰りやデリバリーに適し、レトルト化・瓶詰めなど物販化もしやすい。デリバリーアプリの普及は一時的に需要を喚起し、店の売上の平準化に貢献します(ただし手数料負担も問題)。加えてレトルトやお取り寄せブランド化は“店の認知拡大”に寄与します。
2-6 明確な価格帯設定が容易(回転率を稼げる)
単価が比較的低〜中で回転が速い業態は、昼のワーカーや学生、観光客と相性が良く、導線を作りやすい。手早く出せるメニューやワンプレート構成は回転率を押し上げ、収益化しやすいという構造的な強みがあります。
2-7 専門性と“大衆性”の両立
“スパイス職人”“欧風のソース職人”“店主の家庭風レシピ”など専門性を前面に出しつつ、米やパンとの相性で大衆需要も取り込めるため、リピーターと新規を両立しやすい。
2-8 メニューの“季節性”と限定企画が作りやすい
夏は冷製、秋冬は煮込みの重厚系、限定トッピングやコラボメニューといった季節企画で常に話題を供給できる。
2-9 コミュニティとイベント化のしやすさ
カレーフェス、スパイス講座、コラボ夜会などコミュニティイベントで固定客を作りやすく、その結果口コミが加速する。
2-10 経営者側の“参入モチベーション”が高い
出身業態を問わず挑戦する人が多く、個人経営の情熱と創意工夫が集積しやすい環境が存在します(ただしこれが逆に競合を生む面もある)。
3|一方で閉店(撤退)が相次ぐ理由 — 主要因を分解する

ここ数年、カレー店の倒産・閉店が増えているというデータが出ており、2024年度はカレー店の倒産が過去最高水準に達したとの報告もあります。要因は複合的です。
3-1 食材価格・エネルギーコストの急騰(原価圧迫)
特にコメ、肉類、野菜の価格上昇が直撃します。カレーは“ご飯+ルウ”という固定コスト構造のため、米価や主要材料の上昇が客単価に転嫁しづらい場合、利益率が急速に悪化します。帝国データバンク等の業界報告では「コメ高騰がカレー店倒産の一因」と指摘されています。
3-2 デリバリー特需の反動と手数料負担
コロナ禍でデリバリー需要は一時的に膨らみましたが、プラットフォーム手数料の高さ、競争激化、そして“需要の一巡”により、特需の反動を受けた店が多くあります。デリバリーに依存していた店舗は、店内客の戻りが不十分だと収益回復が難しくなります。
3-3 人手不足・人件費上昇(労務コスト)
調理・接客の確保が難しく、人件費が上がる中でシフト管理や勤怠管理の未整備が経営を圧迫します。小規模店舗ほど代替要員を用意しにくく、休業や営業時間短縮を余儀なくされるケースが増えています。
3-4 競合の過剰出店と「差別化不足」
間借りや低資本参入の容易性は新しい店を多く生みますが、同時に“似たようなコンセプト”が乱立すると価格競争・来客分散が起こります。オリジナリティが弱い店は淘汰されやすいです。
3-5 経営基盤の脆弱さ(会計・資本・販路の不足)
飲食店経営は資金繰り管理や棚卸、原価管理がカギになります。個人店で初期資金が薄く、借入で回していたり補助金・給付金の終了でキャッシュが枯渇したりすると撤退判断が早まります。コロナの経済支援が薄れた局面で廃業に追い込まれる例が報告されています。
3-6 消費者行動の変化(短期トレンド化)
SNSでの“バズ”は来店を一時的に集中させますが、その後のリピート動機が弱いと持続しません。つまり「話題にはなるが再来店につながらない」ケースが淘汰を加速します。
4|閉店リスクを高める“典型パターン”(経営的観点)

- 高額な家賃+低粗利:路面で家賃を抱えながら客単価を上げられない。
- デリバリー頼みで店内動線を軽視:手数料が利幅を奪い、店としてのブランド資産が育たない。
- 一人経営の限界:代替要員がいないため長期休業や体調不良時の売上消失リスクが高い。
- 原価管理の未整備:食材ロスや発注ロスで利益を食いつぶす。
- マーケティング偏重で現場設計が疎か:SNSは集客に効くが、オペレーションと品質が追いつかないと苦情・悪評が広がる。
これらはカレー屋に限らない飲食の教科書的失敗パターンですが、カレー屋は“ご飯”という必須コストがあるため原価圧迫の影響を受けやすく、上のパターンが致命傷になりやすいのが特徴です。
5|成功に寄与する“対処策”と事業設計(実務的アドバイス)

A. 原価管理とメニュー設計を徹底する
・主原料(米・肉)の仕入れ先を複数持ち、まとめ買いや直送でコストを抑える。
・付加価値(トッピング、セット、サイド)で客単価を上げ、ルウやライスの原価率を分散する。
B. マルチチャネルで売上を分散する
・店内飲食を基軸に、簡易パックでのテイクアウト、週末限定の間借りスタイルのコラボ、物販(レトルト)を組み合わせる。デリバリーは販路として残しつつ手数料を考慮した価格設計を。
C. オペレーションの簡略化と自動化
・ルーチン化(仕込み表・日次チェック)、在庫管理ツールの導入、人員シフトの最適化で人手不足の影響を軽減する。
D. SNSは“集客入口”と割り切り、LTV(生涯顧客価値)設計を行う
・SNSで来た客を再来店に繋げる施策(スタンプカード、限定クーポン、会員登録)を必ず用意する。SNS自体は“アテンション”を取る手段であり、客をつなぎとめる施策が無ければ意味が薄い。
E. 小規模でも“強いコンセプト”を作る
・地域の食材、特定のスパイス配合、健康訴求(低糖質・ヴィーガン)など明確な差別化でリピーターを固める。
F. キャッシュフローに余裕を持たせる(資金計画)
・季節変動や原価ショックを見越した運転資金を確保する。公的支援や補助金の情報も常にアップデートしておく。
6|将来展望(トレンド予測と注意点)

- クラフト系/職人性の深化:スパイス理解が深まるにつれ“職人技”に価値がつき、体験価値の高い店が生き残る傾向は続く。
- 物販・サブスクリプションの強化:レトルト化や定期配送で店舗を超えた顧客接点を作る動きが増える。
- デリバリー・ゴースト化の再編:プラットフォーマーの手数料や競争の激化により、デリバリー戦略はより選別的になる(自社デリバリーやクラウドキッチンの活用など)。
7|まとめ(経営者・実務者へのメッセージ)

- カレー屋は「表現の自由度」と「生活食の親和性」によって流行が生じる — しかし流行は一過性になりやすく、再現性あるビジネス設計(原価管理/顧客維持)が重要。
- 閉店の要因は複合的 — 食材・エネルギー・人件費の上昇、デリバリー依存の反動、資金繰りの脆弱性などが絡み合う。統計上、カレー店の倒産はここ数年で高水準にあるため(2024年度は顕著)、保守的な資金計画が求められる。
- 実務的な打ち手は明確 — 原価・在庫・顧客接点(SNS→LTV)・複数販路・オペレーションの安定化。この5点を常に回し続けられるかが生死を分ける。
