クラフトビール事業の魅力と現実
クラフトビールは、個性的で地域性豊かなビールを小規模に製造・販売するスタイルであり、ビール好きな消費者からの支持を集めています。自分の味を世に出したい、地域を盛り上げたいと考える起業家にとって、クラフトビール事業は非常に魅力的です。
しかしその一方で、ビール製造には高度な設備投資や複雑な法規制が関わっており、参入には十分な準備と計画が必要です。

- ビール製造免許の取得(国税庁の許認可)
- 設備投資と製造施設の準備
- 保健所・消防・建築確認などの対応
- ラベル表示と販売形態ごとの免許
- ラベル表示ルール
- 実際の販売方法と販路の開拓
- 期間とスケジュール感
- クラフトビール事業の初期費用まとめ
- 行政書士(酒類製造免許申請の実務専門家)
- 税理士(財務・資金面の相談役)
- 司法書士(会社設立が必要な場合)
ビール製造免許の取得(国税庁の許認可)

● ビール製造免許とは?
ビールは「酒税法」により厳しく規制されており、製造には**「酒類製造免許(ビール)」**が必要です。この免許は、国税庁の管轄であり、申請から取得まで時間と手間がかかります。
● 免許要件(簡易まとめ)
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 生産数量基準 | 年6,000リットル以上(2020年から大幅に緩和) |
| 財務要件 | 安定した財務状況(初期投資+運転資金を自己資金等でカバー) |
| 設備要件 | 発酵タンク、熱交換器、瓶詰機等の設備 |
| 場所要件 | 住居と分離された専用の製造所(保健所や消防の確認も必要) |
| 技術要件 | 製造責任者の技術力や経験があること |
● 申請の流れと期間
1. 税務署または国税局に事前相談
2. 申請書類の準備(製造計画、設備図面、財務書類等)
3. 現地調査・審査
4. 審査完了→許可(通常3~6か月)
※製造開始は免許取得後でなければ不可。
設備投資と製造施設の準備

クラフトビール製造には多様な設備が必要で、初期費用が最もかかる部分です。
● 主な設備一覧
| 設備名 | 用途 |
|---|---|
| 仕込み釜 | 麦芽を煮出し糖化 |
| 発酵タンク | 酵母を加えて発酵 |
| 貯酒タンク | 熟成のために保管 |
| 冷却装置 | 麦汁冷却、発酵温度管理 |
| 濾過装置 | 清澄化 |
| 瓶詰・缶詰・樽詰め機器 | 商品化の最終段階 |
| 洗浄設備 | 衛生管理のため必須 |
● 費用目安
- 小規模ブルワリー(1バッチ250L〜500L規模):1,500万〜3,000万円
- 中規模(1,000L以上):4,000万円〜7,000万円
中古機材や海外製を導入すればコストは抑えられるが、メンテナンスや保守面で注意が必要です。
保健所・消防・建築確認などの対応

ビール製造所は「食品加工施設」としての要件もあり、次の機関への対応が必要です:
● 保健所:食品衛生法に基づく営業許可
- 手洗い・消毒設備の設置
- 製造室と非製造室の区分け
- 衛生管理計画の提出
● 消防署:火気・ガス・タンク類に関する届け出
- ボイラー使用時の火気管理
- アルコール貯蔵による防火対策
● 建築基準法:用途地域・構造確認
- 住宅地では用途制限のため製造不可な場合あり
- 建物の用途変更や改修が必要になることも
ラベル表示と販売形態ごとの免許

ビールを販売するには、製造免許だけでなく、販売形態ごとの免許と表示ルールに準拠する必要があります。
● 酒類販売免許
| 免許種類 | 内容 |
|---|---|
| 一般小売業免許 | 店舗で消費者に直接販売 |
| 通信販売免許(通信販売酒類小売業免許) | オンライン販売(都道府県内が基本) |
| 酒類卸売業免許 | 飲食店・酒販店への卸売り |
ラベル表示ルール

・種類(ビール、発泡酒など)
・アルコール度数
・容量
・原材料名
・製造者情報
・消費期限または製造年月日
※「ビール」と名乗るには、麦芽比率や副原料の基準がある(日本の酒税法で定義)。
実際の販売方法と販路の開拓
クラフトビールの販売戦略は、以下の4つに分けられます。
(1)直販型(ブルワリー併設のタップルーム)
- 醸造所に試飲施設や販売所を併設
- 消費者との接点が強く、ファンが付きやすい
- 飲食営業許可も必要
(2)飲食店への卸売
- バー、レストラン、クラフトビール専門店など
- 樽詰(ケグ)商品での提供が主流
- 独自のブランド力と品質が問われる
(3)イベント・マルシェ・クラフトビールフェス
- 地域イベントやクラフトビール祭でPR
- 一時的な収益と認知拡大を狙う
- テント設営・販売許可等も必要
(4)オンライン販売(EC)
- 通販免許が必要
- クール便など配送管理も重要
- SNSやレビュー、インフルエンサーを活用してファン層を形成
期間とスケジュール感
ビール製造・販売を始めるまでには、最短でも9〜12か月程度は見込んでおく必要があります。
| フェーズ | 所要期間(目安) |
|---|---|
| 事業計画・資金調達 | 1〜3か月 |
| 設備設計・購入 | 3〜6か月 |
| 製造免許申請・審査 | 3〜6か月 |
| 保健所・消防・建築確認 | 同時並行で1〜2か月 |
| 製造開始・試作 | 1〜2か月 |
| 商品化・販売開始 | 1か月〜 |
クラフトビール事業の初期費用まとめ
| 費用項目 | 目安金額 |
|---|---|
| 設備投資 | 1,500万〜3,000万円 |
| 物件取得・改修費 | 500万〜1,000万円 |
| 免許申請・設計・諸費用 | 100万〜300万円 |
| 原材料・初期仕込み | 50万〜100万円 |
| 人件費・運転資金(半年) | 500万〜800万円 |
クラウドファンディングや地域金融機関の融資、小規模事業者持続化補助金などを活用する事業者も多いです。
クラフトビールを市場に出すには、単に「おいしいビールを作る」だけでは不十分です。法的手続き・資金調達・販売戦略・ブランド構築・品質管理といった多岐にわたるスキルが求められます。
● どんな人が起業しているのか?
- ビール愛好家が趣味から発展
- 地域活性を目指す自治体職員・農家
- 飲食店経営者の業態拡張
- 元サラリーマンの地方移住起業
いずれも、「自分にしかできないビールをつくりたい」という強い思いがスタート地点になっています。
行政書士(酒類製造免許申請の実務専門家)

● おすすめの理由
- 酒類製造免許の書類作成・申請代行を専門にしている行政書士が多くいます。
- 特に「酒類申請に強い行政書士」を選ぶことで、要件の整理、財務諸表の作成支援、国税局との事前相談の代行まで行ってくれます。
- 全国に対応している事務所もあります。
● 依頼する場合の費用相場
- 30万円〜60万円程度(規模・内容による)
- 成功報酬型の場合もあり(免許不許可なら費用不要)
税理士(財務・資金面の相談役)
● おすすめの理由
- 免許申請には「事業計画」「収支計画」「資金繰り表」など、しっかりした財務書類が必要です。
- 税理士は財務基盤が健全であることを証明するのに有効で、金融機関からの融資相談も兼ねられます。
- 行政書士と連携してチームでサポートしているケースもあります。
● 補足
- 書類作成は行政書士、財務証明は税理士、と分担されることが多いです。
司法書士(会社設立が必要な場合)
● おすすめの理由
- 醸造所を法人で運営する場合(株式会社や合同会社など)、会社設立手続きを代行してくれます。
- 酒類免許は個人より法人のほうがスムーズに通る傾向があるため、法人化を検討するなら必要です。
実務的なおすすめ組み合わせ

| 段階 | 専門家 | 役割 |
|---|---|---|
| 事業立案〜法人化 | 司法書士 | 会社設立 |
| 財務準備〜資金調達 | 税理士 | 財務諸表作成・融資相談 |
| 製造免許申請 | 行政書士(酒類専門) | 書類作成・国税局対応 |
