日本の年金制度は、国民が老後に一定の収入を得て、生活の安定を図るために設けられた社会保障制度の一つです。高齢化が進行する現代において、年金制度の理解は私たちの将来設計に直結する重要なテーマです。
1. 年金制度の構造:2階建ての仕組み
日本の公的年金制度は「2階建て構造」と言われます。
1階部分:国民年金(基礎年金)
すべての国民が加入する年金制度で、20歳から60歳未満のすべての人が対象です。自営業者、フリーランス、無職の人は「第1号被保険者」、会社員や公務員の配偶者(専業主婦など)は「第3号被保険者」、厚生年金に加入している会社員や公務員は「第2号被保険者」と分類されます。
2階部分:厚生年金
主に会社員や公務員などが加入する制度で、給与や賞与に比例して保険料と将来の年金額が決まります。
この「2階建て」に加え、さらに任意加入である「企業年金」や「個人年金(iDeCoなど)」を活用することで、3階建て、4階建ての年金を形成することも可能です。
2. 公的年金の種類
① 老齢年金
最も一般的な年金で、老後の生活を支える目的で支給されます。
老齢基礎年金:原則として10年以上保険料を納めた人が、65歳から受け取ることができます。満額支給額は年額約80万円(2025年度現在)です。
老齢厚生年金:会社員・公務員が受け取る上乗せの年金で、報酬比例となっています。加入期間や給与額によって受給額が異なります。
② 障害年金
病気や事故などで障害を負った場合に支給される年金です。
障害基礎年金:1級・2級の障害に該当する場合に支給されます。
障害厚生年金:厚生年金の加入者が障害を負った場合に、等級に応じて支給されます(1級~3級および障害手当金)。
③ 遺族年金
加入者が亡くなった場合に、遺族に対して支給される年金です。
遺族基礎年金:原則として18歳未満の子どもを持つ配偶者(または子)に支給されます。
遺族厚生年金:厚生年金の被保険者が亡くなった場合に、配偶者(特に妻)や子どもに支給されます。
3. 年金の財源と「賦課方式」
年金制度の財源は、主に現役世代が支払う保険料と、国からの税金によって成り立っています。日本では「賦課方式」が採用されており、現在の高齢者に支払われる年金は、現役世代が納める保険料からまかなわれています。
一方で、将来自分がもらう年金は、そのときの現役世代が支払う保険料から支給されるという「世代間扶養」の仕組みになっています。
この方式には「支え手と受け手のバランス」が重要であり、少子高齢化が進む現在、制度の維持が課題となっています。
4. 年金制度の現状と課題
年金制度は、日本の社会保障の中心的な制度ですが、多くの課題も抱えています。
● 少子高齢化による支え手不足
出生率の低下により、年金を支える現役世代が減少し、受給者が増加するという構造が生まれています。かつては「1人の高齢者を5人で支える」時代がありましたが、現在では「2人で1人を支える」時代に突入しています。将来は「1人で1人以上を支える」ことも予測されています。
● 受給開始年齢と金額の問題
現在は65歳からの受給が原則ですが、繰上げ(60歳から)や繰下げ(70歳以降)も可能です。ただし繰上げれば減額、繰下げれば増額となるため、生涯設計の視点が欠かせません。また、物価上昇や生活費の増加に比べ、年金額の上昇は抑制されており、老後資金の不安を抱える人も多くいます。
● 無年金・低年金問題
経済的事情や制度への無関心から、保険料未納や未加入のまま年金を受け取れない人も一定数存在します。特に自営業者や非正規労働者、外国人労働者などに見られる傾向です。
5. 年金制度改革の動きと今後の展望
年金制度は国の将来を左右する重要政策であり、たびたび見直しが行われています。
● マクロ経済スライド
年金の給付水準を、物価や賃金の変動と連動させつつ、長期的に調整していく仕組みです。年金の持続可能性を保つための調整弁とされています。
● 受給開始年齢の柔軟化
受給開始年齢を60~75歳の間で自由に選べる「選択制」が導入されています。高齢者の就労が進むなか、より柔軟な制度が求められています。
● iDeCoやNISAなどの自助努力支援制度
国の制度だけで老後の生活を賄うのが難しくなりつつある中、個人が任意で老後資金を準備できる制度も整備されています。iDeCo(個人型確定拠出年金)は節税メリットもあり、活用する人が増えています。
最後に
年金制度は、「将来受け取るもの」という受動的な見方ではなく、「今を生きる私たちが作り上げる社会の仕組み」として捉えることが重要です。制度の仕組みを理解し、自らのライフプランに合わせた備えを行うことで、不安の少ない老後を迎えることができます。
年金制度の将来は不確かではありますが、それは変化し続ける社会の中で、私たち一人ひとりが制度を理解し、支え合う意識を持つことでしか支えられません。国任せにせず、自ら選択・行動することが、これからの年金時代を生きるカギになるでしょう。