飲食店の開業や新店舗の展開を考えるときに必須なのは、立地の選択です。飲食店の経営にとって立地は重要な要素であり、適した出店場所を選ぶには立地調査が欠かせません。いくら魅力的な料理を提供する飲食店でも、立地が不適切であれば売上も伸び悩みます。
しかし、実際に立地調査に取り組もうとしてもどこから手をつけたら良いかわからない方もいるでしょう。取り掛かる前にコツを学んでおけば効率的に調査が進み、開店後に立地で後悔することもなくなります。
飲食店経営において「立地」は最重要項目
飲食店経営では立地によって売上が大きく左右されることがあるため、メニューやサービスよりも重要視されることも。飲食店を成功させる要素の「7割が立地」とまでいわれるほどです。
メニューやサービスは開店後でも改善が可能です。しかし一度出店してしまうと、立地が悪くても容易に移転できるものではありません。立地の選択で失敗すると将来的に大きな損益を抱えるリスクも考えられます。
飲食店の立地を検討する際にはまず店舗のコンセプトやターゲットを明確にして、見合ったエリアを選びましょう。
例えば、忙しいビジネスマンが多いオフィス街ではファストフード店や回転率のいい定食屋が好まれる反面、腕の良い料理人がコース料理を提供する高級店は相性が悪く、売上を伸ばすのは難しいでしょう。
このように、店舗の開業を成功させるには適したエリアや立地を見定める必要があります。立地選びにおいて店舗との相性はとても重要な要素なのです。
「好立地」が絶対に儲かるわけではない
いわゆる「好立地」に出店しても、必ずしも飲食店のビジネスが成功するとは限りません。「好立地」はメリットが多い反面、競争率も家賃も高い傾向にあります。。好立地にこだわりすぎると出店先が見つからず、事業計画に支障が出ることもあるでしょう。
さらに人通りの多い好立地でも、行き来する人の所得や世代によっては関心を持ってもらえない場合もあります。
一度出店すると不況時や閑散期でも、賃料をはじめとする維持費を支払い続けなければなりません。一般的に好立地とされる土地でも、賃料に経営を圧迫されるようでは、自社にとって良い立地ではないといえます。
自店舗で提供しようとしているメニューの価格や売上予測などから、どの程度を維持費に充てられるか考える必要があります。年間の予算計画を立て、物件と業態、コンセプトのすり合わせをおこない、適合させることが大切です。
ビジネスの成功が見込める立地こそが自店舗にとっての好立地であるため、十分に検討して選択しましょう。
立地の種類を把握する
立地には大きく分けて5つの種類があり、それぞれの特徴を把握することで効率的な立地調査ができます。それぞれの概要・ターゲット・特徴・注意点などを簡単にまとめました。
立地の種類 |
概要・特徴 |
ターゲット層 |
注意点 |
ビジネス街 |
・企業オフィスが並ぶ ・会社員が多く集まる |
・平日のライチ/ディナータイムの会社員 |
・曜日、時間によって需要の度合いが異なる ・競合とターゲット層が被るため差別化が必要 |
繁華街 |
・飲食店や専門店、などが集まる華やかな立地 ・大きな施設が多く人通りが多いため、集客しやすい |
・平日:ビジネスマン ・土日祝:若者、学生、家族連れなど |
・競争性が高い |
住宅街 |
・住宅が多い立地 ・繁華街より賃料が安く、出店しやすい |
・メインターゲットは地域住民 ・固定客を多く獲得できる可能性あり |
・住民層によって好まれるメニューや価格帯が異なる |
駅周辺 |
・駅付近の立地 ・ある程度の規模を持つ町であれば人通りは多い ・広告宣伝に力を入れなくても一定数の集客は期待できる |
・メインターゲットは公共交通機関の利用者 ・車を使わない顧客も多く、アルコールを提供店舗も好まれる |
・人気エリアのため賃料が高く、出店のハードルも高め |
郊外 |
・都市の中心部から離れた、住宅や田園が広がる立地 ・賃料が安いため参入のハードルが低く、競合店も少ない ・大型施設付近であれば、その集客力の影響で集客の可能性も。 |
・ドライバーや家族連れなど |
・人通りが少ない分、集客が難しい ・移動の手間をかけてもそこに行きたくなる高付加価値の提供(通行客がターゲットにできないため) |
立地タイプ:ビジネス街
ビジネス街エリアは、メインターゲットである会社員が多いため、需要が高い時間や曜日(平日ランチタイムやディナータイムなど)が限られています。また、ターゲット層が限られている分競争率が高くなるため、競合との差別化が必要な点も注意が必要です。
立地タイプ:繁華街
繁華街エリアは、その性質から人が集中しやすいエリアです。平日はビジネスマン、休日は若者、学生、家族連れなどが集客できます。
その反面、比較的家賃は高めで、競合関係にある店舗も出店するため、競争性は高くなる傾向があります。
立地タイプ:住宅街
住宅街エリアは、その地域に住む顧客の集客がメインになるでしょう。
家賃は繁華街と比較すると安めで、広告宣伝に力を入れなくても一定数の集客は期待できます。
その一方で、住民層によって好まれるメニューや価格帯が異なるため、ターゲット層の分析には注意が必要です。
立地タイプ:駅周辺
駅周辺エリアは、ある程度の規模であれば通行客は多いため、広告宣伝に力を入れなくても一定数の集客は期待できるでしょう。車を使わない顧客も多く、アルコールを提供する業態も多く出店する傾向があります。
しかし、人気エリアのため賃料が高く、出店のハードルも高くなるでしょう。
立地タイプ:郊外
郊外エリアは、都市の中心部から離れた住宅や田園が広がる立地とした場合、賃料が安く、競合店も少ないでしょう。大型商業施設が近くにある場合、その集客力の影響で集客できる場合もあります。
しかし、大型商業施設と競合関係にある業態だった場合、集客が難しくなることも。
出店するとした場合、近隣エリアから集客するためにも、移動の手間を負荷と感じないような高付加価値商品/サービスの提供が求められるでしょう。
商圏を確認して調査範囲を絞り込む
立地調査を進めるためには、自店舗の商圏を設定して調査範囲を絞り込みましょう。商圏とは、店舗に足を運ぶ可能性のある顧客が生活する範囲です。
出店する立地の種類はどれなのか、顧客の移動手段は何かといった条件の違いによって、商圏の範囲も異なります。
商圏を設定することで、来店する客層がいる範囲を精査できます。やみくもに周辺を調べるよりも効率的に立地調査をおこなえるため、出店候補地を決めたら、商圏を設定してから立地調査に移りましょう。
現地調査を欠かさない
現地調査にはデータや資料をもとに分析する「客観的調査」と、直接現地に出向く「主観的調査」があります。町や周辺地域の様子はデータだけではわからないことも多いため、現地調査は必ずおこないましょう。
現地周辺の特徴、動線、店舗の雰囲気や入りやすさなどを、実際に目で見て調べてみてください。最寄駅から店舗までのルートや視認性の良さは、マップ上だけでは十分にわからない情報です。
現地調査をすることで、交通量はどの程度あるのか、自店までの道の通行量や歩きやすさ、どのような店舗が人気か、買い物客はどれほどいるのかといったエリアの具体的な特徴がわかるため、ターゲットの把握にもつながります。また、現地には時間帯や曜日、季節などを変えて数回出向き周辺の状況を細かく調査することが大切です。
周辺の飲食店をはじめとする店舗を回って調査をおこなうと、多角的な視点によるエリア情報を獲得できます。